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2023.06.07

京大准教授が求める「共創時間時計」は水星人との待ち合わせに使えるか

Getty Images(写真はイメージ)

京都大学総合博物館准教授 塩瀬隆之氏は「機械学習による熟練技能継承支援システムの研究」が専門の工学博士である一方、教育の分野をはじめ活動・貢献領域は広い。たとえば不登校特例校として話題を呼ぶ草潤中学校には立ち上げから関わり、現在もアドバイザーとして思いを寄せる。「不登校児専門公立中」開校。除幕式で会場を涙させた京大准教授のスピーチ は大きな話題を呼んだ。

京都大学総合博物館で「時を越える共創の場づくり」を手がけ、ツールとしての「時計」と、共創の場に流れる「時間」についての発信も多い塩瀬氏に、今回は「共創時間」とは何かについてご寄稿いただいた。


わたしたちがまだ見たこともないような、何かすごいことを思いついたり、面白いことを作りあげたりするには、自分一人だけで生み出すには限界がある。ましてや多様な人が共感できる結果に結びつけようとするには、その多様な人たちと共に創りだす関係性をまず構築しなければならない。共創相手が、気心の知れた仲良しであれば、心地よい相槌や絶妙のタイミングで情報提供してくれるなど、まさに阿吽の呼吸で共創することができる。

しかしいつでも共創相手が気心の知れた仲間とは限らない。同じ会社にいても今まで喋ったことがない人や、近所で挨拶はするがどちらかといえば苦手な人など、微妙な関係の相手の場合、遠慮したり躊躇しているうちに、ギクシャクした関係のままその時間が終わってしまう。

しかし、はじめてあった人とでも、少し相性が合わないと感じる人とでも、ピタリとタイミングをあわせられる何か「特別な道具」があれば、どんな人とでも共創できるようになるかも知れない。

「時間の流れに抗う」博物館で、時空を越えた共創の場づくりを

 「共創時間時計」の企画会議が2023年4月22日に大阪のとあるビルの一角にて行われた(Tool Salon vol.03 〜共創のじかん〜)。共創の場を活性化するべく様々な道具を開発してきたメンバーによるツールサロンというイベントである。「共創時間時計」というテーマセッションにゲストとしてお招きいただいたので、そのときの様子を紹介させていただく。

なぜ大学博物館の教員が「時間」の話で招かれたかと問われれば、一つには「博物館が時間の流れに抗う場所」と話していたことを主催者が記憶してくれていたためである。

時間の矢という言葉で語られるのは、一度放たれた矢のように時間が一方向的で決して後戻りすることはないことを意味する。すべての乱雑さ、複雑さは後戻りすることがないように広がり、散らばり、バラバラになる。これがモノが壊れていく現象であり、失われていく現象そのものでもある。

博物館とはある意味で、その時間の流れに逆らう場所だと言える。モノの散逸を防ぎ、劣化と破損に抗い、情報を付与して体系的に陳列する。数百年・数千年前の歴史学や考古学史料から、何万年・何億年前の化石資料まで、そのままではこの地球上で決して出会うことがなかった異なる時間軸にあったものがを現代に生きる人々の時間軸と折り重なる、そんな時空を越えた共創の場づくりこそが博物館の仕事だと考えていた。

「共創時間」を「惑星による時間の違い」でとらえる

「時間」について考えることはとても壮大であり、歴史に名を遺す数々の天才物理学者たちが挑み続けて、なお未解決のままの問題の一つである。

その「時間」よりもさらに「共創時間」と聞いて、困惑とともに未知への期待感が湧き上がった。そして最初に思い浮かんだエピソードが、「惑星による時間の違い」であり、これをトークセッションの冒頭の話題提供に選んだ。
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文=塩瀬隆之 編集=石井節子

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