仮にこれがすべてHIMARS用ロケット弾向けだとしても、その価格を1発17万ドル(約2500万円)で計算した場合、7000発弱にしかならない。(編集注:実際にはこの金額にはHIMARS本体も含まれるとみられる。また、ウクライナに供与されたHIMARS用弾薬はほかに、米ボーイングなどが手がける長射程ロケット弾のGLSDBと、ロッキード・マーティン製の戦術弾道ミサイルATACMSがある)。
マーク・ハートリング米陸軍中将(退役)は以前、HIMARS1基は1日あたり弾薬を最低でも2ポッド、つまり12発発射するとし、当時ウクライナに供与されていた16基を運用する1個大隊全体では1日200発弱の発射数になると、ざっと試算していた。おそらくこれは、現実的に可能な最多の発射ペースということになるだろう。
ウクライナ軍のHIMARSはその後、2倍以上(少なくとも2個大隊相当)に増えているので、この想定に従えば1日の発射数は400発かそこらになる。だが、実際にこれだけの数を発射していれば、ウクライナ軍のHIMARS部隊は1カ月足らずで弾薬を1万発消費することになる。ウクライナがHIMARSを受け取り始めてから2年半以上たっている。
意味するところは明らかだ。ウクライナ軍はM30/31をこれほど速いペースでは発射していない。そうではなく、最も効果的な射撃任務のために温存している。たとえば、前線近くの訓練場に無防備な状態で集まっているロシア兵らを攻撃するような場合だ。慎重に使うことで、ウクライナ軍はM30/31をいくらか備蓄できているのかもしれない。
だが、トランプが米国の援助を凍結し、米国の立場をロシアの利害に合致するように変えているために、ウクライナ軍は当面、残っているHIMARS対応弾薬でやりくりする必要に迫られている。
欧州は支援できる。英国、ドイツ、イタリア、フランスの4カ国はこれまでに、HIMARSが発射するのと同じ227mmロケット弾を発射する多連装ロケットシステム(MLRS)計25基と、MLRS向けの米国製ロケット弾をウクライナに供与している。HIMARSが装輪式なのに対してMLRSは装軌式だ。
とはいえ、欧州の弾薬備蓄は米国ほど多くない。欧州諸国は、ウクライナ軍のHIMARSが時おり射撃任務を行うぐらいの数の弾薬なら供給できるかもしれないが、その射撃任務の頻度がこれまでよりも落ちるのはほぼ確実だ。