環境負荷の高いフロンガスではなくCO2を用いた産業用冷凍機を製造する日本熱源システム。元記者という異例の経歴をもつこの経営者は、フロン対策に後れをとる日本の現状をどう変えていくのか。
▶︎「Forbes JAPAN 2025年4月号」では、高付加価値を生み出す革新的な企業を総力取材したのスモール・ジャイアンツ企業を大特集!
2年に1回、ドイツのニュルンベルクで開催される冷凍・空調機器の国際展示会「チルベンタ」。昨年10月に開催されたチルベンタ2024には、世界各国から1010社が出展し、約3万3000人が来場した。毎回足を運んでいる日本熱源システムの原田克彦は、各社の出展ブースを見て、あらためて日本とヨーロッパの差を痛感した。
日本熱源システムは、自然冷媒のひとつであるCO2を使用した産業用冷凍機の日本におけるマーケットリーダーだ。ただ、日本の冷凍冷蔵倉庫のうち、CO2単独冷媒の冷凍機が占める割合は4.9%に過ぎない(容積ベース、22年)。一方、チルベンタに並んでいるのは自然冷媒の冷凍機ばかり。環境意識の差は歴然だった。
そもそも冷媒とは何か。冷凍・空調機器の内部の回路に充填する気体のことで、回路内で気体や液体に状態変化させることより、モノを冷やす仕組みになっている。かつて冷媒には特定フロンという種類が広く使われていたが、オゾン層破壊の原因として国際条約で規制対象になった。その後継として出てきた代替フロンは、オゾン層こそ破壊しないものの、CO2の4000倍近い温室効果がある(低温用)。2010年代以降は代替フロンに対しても規制の動きが加速。ヨーロッパでは代替フロンに代わる冷媒として、CO2などの自然冷媒が使われるようになった。
ひるがえって日本はどうか。原田は憤りを込めてこう語る。
「日本では、20年に特定フロンのひとつであるR22がようやく全廃されました。しかし、22年の段階で、R22を使っている冷凍冷蔵倉庫は全体の42%もあります。R22全廃といっても、実は禁止されているのは生産と輸入だけで、古い機器のなかから取り出して再生することは許されている。特定フロンに対して、これほど抜け道がある国は、先進国のなかでも稀です」
高温多湿の国でCO2冷媒は難しい
冷凍・空調機器の自然冷媒にはCO2のほか、アンモニアやプロパンがある。現在、日本で主な自然冷媒冷凍機メーカーは5社あるが、競合はアンモニア・CO2の組み合わせや小型機が多く、中型・大型の産業用CO2機では5社のなかで最も規模が小さい日本熱源システムがリードしている。
なぜヨーロッパで広く普及するCO2冷媒を他社が積極的に手がけないのか。その理由は高温多湿な日本の気候にある。
「CO2は31℃が臨界点。それを超えると気体と液体が混じって、コントロールが難しくなります。ヨーロッパでCO2冷凍機が普及し始めた当初はスイス、北欧といった比較的涼しい地域が中心で、日本のように夏に気温が40℃を超えることもある地域ではそもそも無理だと言われていました」