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2025.03.21 08:30

元NHK記者がCO2冷凍機で新市場を開拓 「熱を制するものは時代を制す」

原田克彦|日本熱源システム 代表取締役社長

日本熱源システムがドイツの冷凍機メーカーGEA社から「日本でCO2冷凍機をやってみないか」と声をかけられたのは2012年のことだった。GEA社はCO2冷凍機を手がけるメーカーを買収。前述の理由でヨーロッパのCO2冷凍機をそのまま日本に導入することは難しいため、パートナー企業の日本熱源システムに日本仕様の開発をもちかけた。そこから原田や技術者たちの長い闘いが始まった。

「開発は大きなブレイクスルーがあったというより、細かい工夫の積み重ねでした。CO2液をためるタンクを大きくして外気温の上昇を受け止められるようにしたり、室外機に霧吹きして温度を抑えたり。一つ一つ積み重ねて全体のシステムをつくりあげていきました」

ただ、単にCO2冷凍機を動かすだけなら、ほかのメーカーも難しくなかったはずだ。日本熱源システムが独自のポジションを築けたのは、自然冷媒と同時に省エネ性を実現したからである。

圧倒的な省エネ性を実現するために、冷凍機1台あたりに4〜6台搭載される圧縮機すべてをインバーターで制御することにした。夏のピーク時以外には低速回転にし、外気温に応じた最適運転をする。しかしその場合、CO2と一緒に回路内を循環する潤滑油が圧縮機に戻らずに圧縮機が焼き付く危険がある。このジレンマが開発のネックだった。

「インバーター制御なしだと従来のフロン機と比べて電気代は1.5〜2倍かかってしまいます。それでは普及しないと思ったので、最初から省エネを両立させるつもりでした。詳細は明かせませんが、インバーター制御で低速回転運転を行ってもCO2と潤滑油の循環ができるようになったのはGEA社との協力関係が大きい。うちの技術者が半年ドイツに行って、向こうからも技術者が2年間来て、CO2の特性を徹底的に学びました」

技術交流するなかで、原田がこだわったことがひとつある。自前主義に陥らないことだ。
冷凍機の心臓部である圧縮機は、長年にわたって信頼関係を構築してきたドイツのパートナーの製品だ。その企業は、メルセデス・ベンツの本社があるエリアにあるという。

冷凍機の心臓部である圧縮機は、長年にわたって信頼関係を構築してきたドイツのパートナーの製品だ。その企業は、メルセデス・ベンツの本社があるエリアにあるという。

「日本の大手企業は自前主義で、最初は海外から技術供与を受けてもすぐ自分でつくろうとします。しかし、私は世界中の優れた会社と協力し、最高の機器や部品、技術を組み合わせればいいという考えです。F1のチームも、最も大事な部品であるエンジンやタイヤは自前ではありません。冷凍機もそのほうが省エネというパフォーマンスを出せる」

CO2冷凍機の初号機が完成したのは2016年。足かけ4年で開発したCO2冷凍機は、従来のフロン機に比べて20〜40%の省エネ性能を誇る。コンプレッサーはドイツ製で、ほかにもデンマーク、イタリア、スウェーデンの部品を活用。まさにCO2冷凍機の“F1カー”である。
CO2冷凍機「スーパーグリーン」。上段にある横長の青い筒状のものがCO2液バッファタンク、下段にいくつも設置されているのが圧縮機(コンプレッサー)だ。圧縮機は冷凍機の心臓のような役割で、冷媒を冷凍機内の回路で循環させる。最終的には霧吹きの原理で冷媒を気化させ、モノを冷やす仕組みだ。1台で違う温度帯をつくることもできる。産業用CO2冷凍機は、冷凍冷蔵倉庫、物流センターや食品工場、化学工場など多くの場所で使用されている。

CO2冷凍機「スーパーグリーン」。上段にある横長の青い筒状のものがCO2液バッファタンク、下段にいくつも設置されているのが圧縮機(コンプレッサー)だ。圧縮機は冷凍機の心臓のような役割で、冷媒を冷凍機内の回路で循環させる。最終的には霧吹きの原理で冷媒を気化させ、モノを冷やす仕組みだ。1台で違う温度帯をつくることもできる。産業用CO2冷凍機は、冷凍冷蔵倉庫、物流センターや食品工場、化学工場など多くの場所で使用されている。

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文=村上 敬 写真=小田駿一

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