電話線に付ける「保安器」事業から起死回生。光コネクタ部品の製造技術で世界シェア2位となった白山。今後のAI需要やIOWN構想実現の追い風を受け、どんな未来を実現するのか。
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わずか1cm四方のプラスティック部品──それが白山の主力製品だ。インターネット回線の接続に必要な光ファイバーケーブルのコネクタ部品で、「MTフェルール」と呼ばれる。その表面に目を凝らすと、0.125mmの小さな穴が並んでいるのが見える。光ファイバーケーブルを通すその穴の精度は、1万分の5mm。それが1万分の1mmでも狂えば、インターネット接続の速度が遅くなるという繊細なものだ。白山の製品はその精度の高さが評価され、世界2位のシェアを誇る。
このMTフェルールを主力製品として注力していこうと考えた米川達也の判断が、白山という会社の命運を大きく変えた。2012年に35年勤めたNTTを退職後、NTTの斡旋で白山に入社した米川は、副社長として銀行にあいさつに行った折に衝撃的なセリフを聞く。「ご存じの通りの状況ですので、当行は今後一切ご支援できません」。NTTの人事には「こんな良い会社はないですよ」とうらやましがられて転職してきただけに、何が起きているのかをすぐには理解できなかった。その後、専門家に調べてもらうと、会社は倒産寸前で21億円の債務超過を抱えていることがわかった。経営経験はまったくなかった米川だが、すぐさま経営の再建に努めることを決意し、社長交代を申し出る。
「入社して1年で会社をつぶすだけ、ということはやりたくないと思いました。同時に浮かんだのは、それまでに機会を設けて対話をし『良い会社にしよう』という約束までしていた社員一人ひとりの顔。そのために、逃げずに立ち向かおうと奮起したんです」
白山はもともと電話線に付ける「保安器」を主力としていたが、時代とともに需要が縮小し、経営難に。米川は事業構造を見直すために、すべての事業を営業利益率と成長率、営業利益額の3点から評価。その結果、当時わずか4〜5人で取り組んでいた光コネクタ事業に大きく舵を切ることを決めた。その見通しは当たり、インターネットの普及やデータセンターの設立を追い風に、光コネクタ事業は大きく成長。11年に1億円だった売り上げは、18年には12億円にまで拡大し、債務超過も解消した。24年には石川工場が能登半島地震で被災したが、世界中の顧客企業から問い合わせを受けたことを機に、商社を挟む間接取引から直接取引にだんだんと移行。営業利益率が大幅に上がって前代未聞の65%となり、この事業の24年の売り上げは37億円以上を記録した。さらに、時代を先取りする研究開発で製品のバリエーションを増やし、誰もが知る巨大IT企業をはじめ多くの世界的企業との取引を行っている。