米川を支える「経営者の十戒」
経営のみならず、中小企業に勤めたこともなかった米川だが、今に生きている経験があるという。それは、米国のインターネット黎明期である90年代前半に、スタンフォード大学への留学とNTTの米国法人での仕事でシリコンバレーに滞在し、ITベンチャーを立ち上げる友人たちを間近で見ていたことだ。そのなかには、Webブラウザ「Mosaic」を開発したマーク・アンドリーセンやYahoo!共同創業者のジェリー・ヤンもいた。
「NTTという大企業にいながら、ベンチャー特有の刺激も受けることができました。そこで学んだのは、シリコンバレーというテクノロジーのメッカでも、結局は個の人間が中心になっているということ。白山でもヒトセントリック(人中心)という理念を掲げ、個を大事にしながら、社員をはじめかかわる人全員が幸せになれる会社を目指しています」
社長交代後は、固定費の削減、事業構造の見直しと順に取り組み、成果を出していった。すべての経営の礎となっているのは、自身の考え方の確立や戒めのために定めた、自分流の「経営者としての十戒」だ。「何とかするのは自分しかいない」という意味の造語「“転原自在(てんげんじざい)”と思え」や、見栄や立場などから自分らしくない判断をせず、悩みためらう姿もオープンに見せる「経営者である前に、いつも、誰に対しても『米川達也』であり続ける」といった10の言葉を自身に課している。
1月30日、白山は大手ケーブルメーカーの古河電気工業に株式の67%を売却し、グループ傘下に入った。財務面での安定を図る一方でビジネスは自立し、製品開発で先手を打っていく俊敏さでグループを引っ張っていく意気だ。この提携によって、MTフェルールのシェアも世界1位になる見通し。MTフェルールは今後、AI需要の増加によるデータセンターの増設でさらなる需要が見込まれる。また、NTTなど3社がリードする新しいネットワーク技術「IOWN構想」の実現に向けた接続技術の研究も進む。劇的な起死回生からAI時代を支える企業へ。小さな巨人への注目度はますます高まりつつある。
米川達也◎白山 代表取締役社長。1977年金沢大学卒業、日本電信電話公社(現NTT)入社。米国法人での勤務を経て、帰国後はNPO法人を立ち上げてベンチャー育成にも携わる。2012年から白山製作所(現白山)に移り、14年2月に代表取締役社長に就任。特技は似顔絵を描くこと。