「初音ミク」の開発者がいる会社が北海道にあることをご存知だろうか。クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役社長の伊藤博之は、「野菜を育てる人も、町をつくる人も、クリエイターは付加価値を生むのが仕事」と語る。伊藤は、なぜ北海道の企業であることにこだわるのか。
「Forbes JAPAN 2025年4月号」では、高付加価値を生み出す革新的な企業を総力取材したのスモール・ジャイアンツ企業を大特集!
藤井風、YOASOBI、米津玄師、BABYMETALなど、今やワールドツアーで10万人単位の動員を誇る日本発アーティストは珍しくないが、そこに肩を並べるアーティストがもうひとりいることを忘れてはいけない。バーチャルシンガー「初音ミク」だ。
2024年は、初音ミクにとってメモリアルイヤーだった。初音ミクが海外ツアーシリーズ「MIKU EXPO」をスタートさせたのは14年5月。10周年にあたる今年は北米21公演、ヨーロッパ6公演、オセアニア5公演、中国11公演(中国はツアータイトル「MIKU WITH YOU」)を開催。全31都市で、動員数は約18万人にのぼった。
初音ミクの生みの親であるクリプトン・フューチャー・メディア(以下クリプトン)代表取締役の伊藤博之は、世界ツアーを振り返って胸をなで下ろす。「コロナ前は、毎年必ず世界のどこかでコンサートをリアルで開催していましたが、コロナ禍の3年間は配信形式に。その間、各国からのオファーがたまり、24年はMIKU EXPO の10周年ということもあって、世界各国をツアーしました。実はオセアニアでの開催は初めて。どれだけファンがいらっしゃるのか不安でしたが、ふたをあけたらほとんどの会場がソールドアウトになりました。初音ミクが世界中で愛されているとあらためてわかってうれしかったですね」
ボカロカルチャーから派生したJ‐POPが世界的な人気を博していることを考えると、その主役であった初音ミクが海外でも強い集客力を持つことに特段の驚きはない。
むしろ驚愕は、7〜8人のチームでMIKU EXPOを回していることだろう。クリプトン・フューチャー・メディアには約140人の社員がいるが、音楽ソフトの輸入代理店部門やシステム開発部門で働く社員が多い。初音ミクのライセンス部門は約40人で、うち5分の1が海外関連になる。
初音ミクはバーチャルゆえにアーティストの移動はない。しかし、ライブ演出の機材やグッズのロジスティクス、プロモーターとのやりとりなど、日本側でやるべきタスクは多い。とくに24年は10周年アニバーサリーとして、全世界から楽曲を募集してグランプリを決め、ライブで披露する企画もあった。それらの業務を、札幌を拠点に活動する少数精鋭でさばききった。

“妄想”から生まれた初音ミク
初音ミク誕生秘話はすでにさまざまなところで語られてきたが、あらためておさらいしておこう。
北海道標茶町出身の伊藤が公務員試験に合格した後の選択肢はふたつ。食糧事務所で稲作の管理をするか、大学職員として研究室でコンピュータを触るか。選んだのはコンピュータの道だった。