コーチングは、いまや組織の発展に不可欠な要素となり、個人とチームのパフォーマンスを向上させる多くの恩恵をもたらしている。国際コーチング連盟(ICF)による2024年報告書では、調査対象となった組織の87%が、幹部社員に対するコーチングの投資対効果(ROI)は高いと回答した。
にもかかわらず、企業のトップリーダーの3人に2人は外部の助言を受けていない。スタンフォード大学の調査によれば、リーダーの43%は、コーチングに対して「極めて受容的」であるにもかかわらず、だ。これがもし、コーチングに対して心を開いていないメンバーからなるチームだったとしたらどうだろう?
個人としては高い業績を上げるのだが、有害なパーソナリティーでチームに不和を生じさせ、説得に耳を貸そうとせず、ましてやコーチングなど受け入れるはずもないような人に出会ったことはないだろうか? 誰かがこんな人物にアドバイスをしてくれたらと思わずにはいられないだろう。その人物が、幹部社員、創業者、取締役ならなおさらだ。
リーダーは、昔ながらのやり方である「命令と支配」に頼ったり、あるいは単に解雇したりする以外の方法で、どうすれば行動変化を生み出せるのだろうか? 以下では、最もコーチングできないと思われる社員が相手であってもコーチングを成功させるための、5つのリーダーシップ戦略を紹介する。
コーチング不可能な人々へのコーチング:「難しい人」の何が難しいのか?
NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)のチーム「カンザスシティ・チーフス」には、なぜ53人の選手と、29人のコーチがいるのだろう? コーチの数は、選手の数の半分を超えている。選手数が53人なのは、NFLの登録選手名簿の規定によるものだが、コーチがこれほど多い理由はもっと単純で、彼らが勝ちたいからだ。
あなたの会社のスタッフもそうだろうが、ヘッドコーチのアンディ・リード指揮下の選手たちも、頭脳は1つより2つの方がいいと知っている。成功に焦点を合わせたプロの目と耳がもう2つずつあったほうが、物事はうまくいくのだ。
彼らは超一流のアスリートであり、大金を稼ぐトップ選手たちだが、さらなる成長のためにコーチの力を借りている。それなら、あなたの会社もそうすべきではないだろうか?
ベストセラー作家のライアン・ホリデイが自著のタイトルで簡潔に述べているように、「エゴは敵(The Ego is the Enemy)」なのだ(邦訳タイトルは『エゴを抑える技術』)。
元グーグルの主任エンジニアでさまざまな才能を持つトム・チーはTEDxの講演で、「知識は学習の敵」だと語る。すでに知っていることの専門家としてふるまう人は、「コーチできない相手」と見られる場合があり、それによって自身のキャリアの可能性を閉ざしてしまうというのだ。
よくある言い回しだが、「心はパラシュートに似ている。どちらも、オープンになった時こそうまく機能する」。しかし、理解できていない何かに対して、どうすればオープンになれるのだろうか?