もし部下たちが不満を抱え込んでいるのだとしたら、どんな優れたリーダーシップにも大して意味はない。
リーダーは誰でも部下のやる気をかきたて、先見性を示し、鼓舞したがる。だが現実はこうだ━━どんなにやる気をかきたてられた部下でも、障害に絶えず邪魔されていたら、いずれ燃え尽きてしまう。そして燃え尽き症候群(バーンアウト)は、生産性を損なうだけではない。よりによって、組織を前進させる潜在能力が最も高い人を失うことにつながるのだ。
筆者が創業したLeadership IQ(リーダーシップIQ)の調査では、「自分の成功を妨げる障害を、リーダーは実際に取り除いてくれる」と回答した従業員は16%にすぎなかった。だが、障害が取り除かれれば、従業員の31%はベストを尽くす意欲をかきたてられるという。これは極めて大きな影響だが、あまりにも多くのリーダーがそれを見落としている。
現実には、従業員がベストを尽くしたくても、お役所的な非効率や相矛盾する優先事項、破綻したプロセスといったものが邪魔をするケースが多い。そうした障害があまりにも長く居座っていると、従業員は離れていく。
調査が示すところによれば、組織の42%ではハイ・パフォーマー(業績の良い人)の方がロー・パフォーマー(業績の悪い人)よりもやる気を失いやすい。それはなぜか。ハイ・パフォーマーはほかの人が漫然と過ごしているあいだも、重荷を背負って行き詰まっているからだ。ロー・パフォーマーなら気にしないような非効率に、ハイ・パフォーマーは押しつぶされてしまう。そして、平凡な人たちが評価される一方で、改善に向けた自分の提案が無視されるという経験をする。
では、リーダーはどう解決すればいいのだろう。
リーダーがまず始めるべきこと
まずは、部下への簡単な質問から始めよう。それは「過去30日間で、あなたはどんな障害に足を引っぱられてイライラしましたか」という問いだ。
この質問は、見かけによらず強力だ。第一に、こう聞かれたら部下は具体的に答えざるを得ない。「フラストレーション全般」について質問すると、論点が曖昧すぎて行動につながる洞察を引き出せない。だが、範囲を過去30日間だけに狭めれば、聞かれた人は具体的な当面の障害を思い出すことができる。
第二に、この質問ならリーダーであるあなたが部下を心から気にかけていることが伝わる。ミーティングの場で耳を傾けるふりをして、調子をあわせてうなずき、行動を起こさないリーダーはあまりにも多い。リーダーが意見を集めているのは見せかけにすぎない、と思った瞬間、部下たちは本音でフィードバックを提供することをやめてしまう。
リーダーが改善に向けた提案を奨励している組織と、そうした提案を無視する組織とでは、エンゲージメントに劇的な差が見られるのは、それが理由だ。実際、リーダーがいつも提案を奨励していると考えている従業員については、自分の属する会社を優れた雇用主として人に勧める割合が、そうでない従業員と比べて12倍に高くなることが調査で明らかになっている。
第三に、この質問が効果を発揮するのはそのあとに行動が伴う場合だけだ。部下にしてみれば、自分のフラストレーションを認識してもらうだけでなく、積極的に対処してもらう必要がある。
プロジェクトを立ち上げて調査データを集め、フォーカスグループを設けたにも関わらず、集まった知見を読まれない報告書として放置しておくだけの組織は多い。部下のフィードバックに対してリーダーが行動を起こさなければ、現状が変わらないだけでなく、信頼を大きく損ねることにもなる。そしてひとたび信頼がなくなったら、部下は声を上げるのをやめてしまう。