宇宙

2025.02.01 16:00

ソ連の「宇宙飛行犬」ライカの悲劇 動物実験の倫理とは

ソ連の人工衛星スプートニク2号の容器に入れられたライカ(Sovfoto/Universal Images Group via Getty Images)

しかし、地球周回軌道上で生きていた時間が短かったにもかかわらず、ライカの犠牲によって、宇宙飛行が及ぼす生理学的影響に関する貴重なデータがもたらされた。ロシア科学アカデミー紀要に掲載された研究報告では、生物が宇宙の環境にどのように反応するかについて、ライカの任務から重要な洞察が得られたとされた。ライカの宇宙飛行は、生物が打ち上げや無重力状態を少なくとも一時的には生き延びられることを実証した。この実験から得られた発見は、その後の宇宙探査の進歩に役立ち、最終的には1961年にソ連のユーリー・ガガーリンが人類初の宇宙飛行を果たすという歴史的な偉業につながった。

ライカの任務から収集されたデータにより、無重力状態が生物の心臓血管系や呼吸機能、ストレス反応に与える影響に関する理解が深まった。ここから得られた知識は、宇宙飛行士の生命維持装置や手順を設計する上で極めて貴重なものとなった。ライカの犠牲はあらゆる面で、それ以降に実施された数多くの宇宙計画の成功の基礎を築いたのだ。

動物実験の倫理

ライカの物語は、動物実験の倫理を巡る反省を促す。ライカの死は世界中に激しい憤りと議論を巻き起こした。各種動物愛護団体は、生物の実験への使用、とりわけ生存の可能性のない実験への使用を非難した。ライカの物語は畏敬の念や賞賛を呼び起こしながらも、科学の発展のために動物を利用することに対する道徳的な難問を突きつけた。

ライカの宇宙飛行から数十年を経た現代では、技術の進歩により、こうした犠牲の必要性は減っている。コンピューターによるシミュレーションやロボット工学などの技術革新により、科学者は生きた被験者に頼らずに実験できるようになったからだ。こうした技術の進歩は、私たち人類がいかに発展してきたかを物語っている。他方で、私たちが過去に成し遂げた成功の裏にある代償を思い起こさせるものでもある。

だが、ライカが残した遺産は今も生き続けている。ライカは科学に貢献しただけでなく、人類の探検や発見に伴う倫理的な課題の象徴としても大切に記憶されている。世界各地にあるさまざまな記念碑や芸術作品が、ライカをたたえている。中でも最も適切だといえるのは、ロケットの上に立つライカの像がモスクワに建立されていることだ。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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