宇宙

2025.02.01 16:00

ソ連の「宇宙飛行犬」ライカの悲劇 動物実験の倫理とは

ソ連の人工衛星スプートニク2号の容器に入れられたライカ(Sovfoto/Universal Images Group via Getty Images)

ライカ――誰からも愛された「小さな毛虫ちゃん」

残酷な訓練を強いられながらも、ライカは一緒に働く科学者や技術者にかわいがられていた。ライカという名前はロシア語で「ほえる犬」という意味だが、当初は「巻き毛の小犬」を意味する「クドリャフカ」と呼ばれていた。科学者たちが愛情を込めて「小さな巻き毛ちゃん」「小さな毛虫ちゃん」などと呼んでいたことから、国民の多くもライカに深い愛着を抱くようになっていった。

しかし同時に、科学者たちはライカを待ち受けている運命をはっきりと予見していた。この計画に携わったロシア人医師の1人であるウラジーミル・ヤズドフスキー博士は、宇宙開発における医学と生物学の接点を描いた著作の中で、ライカを「おとなしく愛嬌(あいきょう)のある」落ち着いた性格の控えめな犬、と描写している。皮肉なことに、この過酷な任務にライカが適していたのは、このような愛らしい性格だったからだ。ライカは穏やかな気質だったからこそ、他の多くの野良犬たちより厳しい試練に耐えることができたのだろう。

打ち上げの前夜、ヤズドフスキー博士はライカと特別な時間を過ごした。これがライカにとって最後の日となることを知っていたからだ。博士はライカを自宅に連れて帰り、自身の子どもたちと遊ばせ、ライカにつかの間の平穏と喜びを与えたと語っている。「ライカのために何かいいことをしてあげたかったのだ。あの子に残された人生はほんのわずかだったから」

1957年10月31日、ライカは入念に毛並みを整えられた後、飛行中の心拍数と呼吸を観測するため体のあちこちに計測器を取り付けられ、人工衛星の容器に入れられた。11月3日、ついに容器の扉を閉める時が来た。この瞬間について、ロシア人技師のエブゲニー・シャバロフ博士は著書『宇宙への道――ソビエト宇宙計画の歴史を語る』の中で、次のように回想している。「ライカが飛行中に生き残れないことは分かっていたが、私たちはライカの鼻に口づけをして無事を祈った」
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翻訳・編集=安藤清香

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