欧州

2024.12.06 09:30

ロシア版「神の杖」? プーチンが誇張するオレシュニク弾道ミサイルの脅威

オレシュニク弾道ミサイル(Shutterstock.com)

炸薬がないこうした弾薬のエネルギーは、ロケット燃料の燃焼によって高速度に加速された際に蓄えられるものだけだ。既存のRS-26ルベーシュ弾道ミサイルの直系の派生型とみられているオレシュニクの場合、独立型の再突入体(RV)6基を搭載した弾頭の重量は800kg程度と考えられ、プーチンによればマッハ10の速度で衝突するという。

その運動エネルギーは約36億ジュールで、TNT換算で1tの爆発エネルギー(44億ジュール)よりもやや小さい。

数値が低いのは別に驚くべきことではない。RS-26の総重量は40t弱で、重量の大半は筐体、ロケットノズル、誘導装置、弾頭など燃料以外の要素で占められている。エネルギーのかなりの部分はこうした「寄生的な」重量部を加速させるのに費やされる。ロケットの各ステージ(段)が燃焼の終わるたびに切り離されるのはそのためだ。

このロケットは宇宙空間でマッハ20に達するが、大気圏に再突入する際に空気抵抗で速度の半分(エネルギーの4分の3)が失われる。「何も失わず何かを得られることはない」という警句のとおり、実際はロケットに蓄えられたエネルギーの大半が浪費されるということだ。

したがって、運動エネルギー弾頭のオレシュニクが放出するエネルギーは2000ポンド(約900kg)爆弾と同程度になる。これはたしかに相当大きな爆発だが、TNT換算で11t相当のH-6混合爆薬を充填した米空軍のMOAB(GBU-43/B)爆弾、通称「すべての爆弾の母」と同じクラスではない。

では、オレシュニクを同じ地点に数発命中させれば、核爆発に匹敵するものになるのだろうか。これまでに製造された最小の核弾頭は、1950年代、ジープに搭載するデイビー・クロケット核兵器システム用に開発されたW54(通称「原爆スイカ」)だとされる。W54は、最低の設定で威力をTNT換算で10t相当に調整可能だった。これはオレシュニク約12発分だ。このような限定的な意味でなら、多数のオレシュニクが同一地点に着弾すれば最小規模の核攻撃に匹敵すると言うことができる。

とはいえ、ここで重要な問題がある。複数のオレシュニクを同じ地点に命中させるのはまず不可能だということだ。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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