通常弾頭を搭載した中距離弾道ミサイル(IRBM)の使用は世界初だった。炸薬を含まない36発の子弾は「隕石のように落下」(プーチン)し、運動エネルギーによって損害を与える。人口隕石の雨はおどろおどろしかったが、視覚証拠によれば目標にたいした被害は出なかったようだ。この攻撃は本物の脅威というよりも、むしろ壮大な花火のようなものだった。
神の杖
米シンクタンクのランド研究所は1950年代に、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭として核の代わりにタングステン製ロッド(棒)を搭載することを提案した。「プロジェクト・トール」(トール=Thor=は北欧神話の雷神)などと呼ばれるこのアイデアは、ジェリー・パーネルをはじめとするSF作家の作品にも採用された。各ロッドは一度に降下するのでなく、いったん軌道上にとどまり、その後方向を変えて、選択された目標に向けて急降下できるというふうに考えられている。のちに「神の杖」と呼ばれるようになったこうしたロッドについて、提唱者たちは、核兵器と同等の威力で攻撃でき、しかも放射線や放射性降下物は発生しないと主張していた。
数十年後、それとまったく同じ主張をしているのがプーチンだ。彼はオレシュニクについて、同じ場所に複数回使えば「核攻撃に匹敵する」威力をもつと述べた。「われわれは歴史上、隕石がどこに落下して、どのような結果をもたらしたのかを知っている。ときには湖が形成されるほどだった」とも言っている。
おそらくプーチンは、「技術専門家」から受けた説明をあまり詮索もせずそのまま話したのだろう。
この主張は技術的には正しいものの、非常に狭い意味においてのみだ。ここで思い出すべきなのは、宇宙からの運動エネルギー爆撃を扱ったあるSF小説に出てくる有名な言葉「何も失わず何かを得られることはない(There ain't no such things as a free lunch.)」だろう。