カルチャー

2024.09.26 12:15

世界を唸らせた盆栽プロデュース「TRADMAN'S BONSAI」の守破離:小島鉄平

小島鉄平|TRADMAN’S BONSAI代表/松葉屋社長

9月25日に発売されたForbes JAPAN 2024年11月号では、文化と経済活動を両立させ、新たな価値を生み出そうとする「カルチャープレナー」を総力特集。文化やクリエイティブ領域の活動で新しいビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようとする文化起業家を30組選出し、その事業について紹介する。

日本の伝統文化、盆栽。小島鉄平率いる「TRADMAN'S BONSAI」は、盆栽をストリートカルチャーや現代アートと融合させ、これまでにない見せ方で新たな価値を提示する。



きっかけは、アパレルのバイヤーとして米国を巡っていたころのことだった。小島鉄平が日本人だと知ると「オレの盆栽いいだろ?」と自慢げに見せられたが、そのほとんどがまったく話にならなかった。鉢合わせも剪定もできておらず、幹にペンキを塗ったものまであった。

「正直に、これは盆栽じゃないよ、と伝えました。で、自分がもっていた盆栽の写真を見せると、みんな『なんだ、これは!』と衝撃を受けてました」
推定樹齢100年の五葉松。幼い頃の小島に「盆栽と同じぐらいの衝撃」を与えたリーバイス 501にちなんで「501」と名付けている。「御用を待つ」という語呂から、仕事が舞い込む縁起物として飾られることが多い樹種。

推定樹齢100年の五葉松。幼い頃の小島に「盆栽と同じぐらいの衝撃」を与えたリーバイス 501にちなんで「501」と名付けている。「御用を待つ」という語呂から、仕事が舞い込む縁起物として飾られることが多い樹種。

幼少期を過ごした施設で盆栽に慣れ親しんだ小島は、盆栽を見ると、気になって眺めてしまう少年だった。いい鉢を見つけると、その家の呼び鈴を押し、「盆栽見せてください」と飛び込むことも珍しくなかった。「仕事にしなかっただけで、大人になってもずっと好きでした。だから海外に間違って伝わっていることに強烈な違和感がありました。本当はかっこいいのにな、と」。

それから、頭のなかはそのことでいっぱいだった。自分だったら何かできるかもしれない。自分がプロデュースする盆栽で、世界で勝負できるかもしれない。帰国するころには、「かもしれない」は消え去り、心が決まっていた。

当時小島は、アパレルショップ以外にもクラブ経営や内装業など、仲間とともにさまざまな事業を手がけていた。これらの利益を元手に、自己資金で「TRADMAN’S BONSAI」を創業。2015年のことだった。
TRADMAN’S BONSAIのメンバーは約25人。小島と30年来の友人である副社長の小山修介など、古くからの仲間も多い。盆栽歴50年になる小島の師匠も一員に。最近は女性の弟子入り希望者も増えている。

TRADMAN’S BONSAIのメンバーは約25人。小島と30年来の友人である副社長の小山修介など、古くからの仲間も多い。盆栽歴50年になる小島の師匠も一員に。最近は女性の弟子入り希望者も増えている。

中国で確信した自分たちのスタイル

しかし、のっけからつまづくことになる。往々にして、伝統文化の世界は敷居が高く、閉鎖的だ。盆栽も例外でなく、仲間と買い付けに行けば「タトゥーの入った若者たち」の姿に眉を潜められ、何かと口実をつけては取引させてもらえないこともあった。

日本での新規参入は厳しいと見た小島の動きは早かった。上海にいる知人のつてをたどり、中国で盆栽ビジネスをしようと試みる。しかし、市場に並ぶ盆栽のクオリティは低く、「数十鉢にひとつぐらい良いものがあると、高額で、それらはすべて日本産のものでした」。参入のしやすさと同時に、日本のレベルの高さを思い知った。それでも原石となる盆栽を仕入れ、アレンジし、技と販売の実績を積み上げた。そしてある日、転機となる出来事が起こる。
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文=青山 鼓 ポートレート=若原瑞昌 その他写真=TRADMAN’S BONSAI

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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