「スロー」はラグジュアリーなのか プロセスと結果の関係とは

MIGO for Benchmark. Photo: Jason Yates

「スロー」という言葉がでてきたら、スローフード運動に触れないわけにはいかないですね。イタリアの北西部、ピモンテ州のブラで誕生した運動です。
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1989年にパリで宣言を発表したもので、指針は3つあります。

1. 消えていく恐れのある伝統的な食材や料理、質の良い食品、ワインを守ること
2. 質の良い食材を提供する小生産者を守ること
3. 子どもたちを含め、味覚の教育を進めること

ローマのスペイン広場にマクドナルドが開店するのに反対したのが契機だったとはよく知られています。20世紀初めにイタリアにおきたスピードや騒がしさをテーマとした未来派という美術運動に対する、およそ60年を経ての反論でもありました。実践としては紆余曲折がありますが、スローフード運動の目指すスローはとても具体的であったのが分かります。ライフスタイルとしてスローだけでなく、目指すものを実現するにも必然的にスローです。 
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この運動は食分野にとどまらない大きな広がりをみせます。その一つが1999年のスローシティ宣言です。人間サイズの生活圏を取り戻そうとの運動で人口5万人以下の都市を対象に、現在、世界に300以上の加盟都市が散らばっています。そこでは、例えば、大規模なショッピングモールではなく、小規模な個人商店が繁盛する生活空間が重視されるわけです。
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個々の生活が全面的に変わったかどうかはさておき、スローという方向を望むべきものとして見つめる人たちが増えてきたのは実感するところです。ウエルビーングという言葉をどこでも見かけるのが、その証です。

歓迎してしかるべき動向ですが、その先がなかなか難しいのも同時に感じるところです。具体的な障壁が数多く立ち並んでいるその根底にあるのは、どれも絶対的な時間を要する、という点です。

壊れた機械は必要なノウハウと部品や工具があれば即日使えるようになります。しかし、雹によって打撃を被った畑は、何カ月か、そこで生育する種の種類によっては翌年の収穫を待たないといけないかもしれません。また、人間サイズが重視されるとは、人間関係が基礎にあるということになります。困っている縁戚でもない隣人に手を差し伸べるに多くの時間とエネルギーを定期的に惜しまずに注げるのは、隣人との親しい友人関係にある場合が一般的でしょう。親しくなければ、そこにお金が発生し、長期間のケアは実現しづらい。

短時間の方が良いこと、長時間の方が良いこと、世の中には大きく分けて2つあります。

嫌なことは早くすませたいし、好きなことはじっくり時間をかけたい。大量のものを多くの人数で大きな市場に売るビジネスなら運営の時間効率は必須ですが、手作りされた少量のものを限られた地域の人に売るなら人間関係を優先するでしょう。これらの区分けで比較的にはっきりしているものは、あまり衝突することがないです。
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文=前澤知美(前半)、安西洋之(後半)

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