形状と機能を超えて。半世紀を経て注目されるデザインの「CMF」とは

メンフィスの展示「Livin’ Memphis」 (c) Ken Anzai

メンフィスの展示「Livin’ Memphis」 (c) Ken Anzai

デザインというとまず形や機能が連想されるが、それ以外にも重要な要素が3つある。色、素材、仕上げだ。モノにあふれた飽和状態であり、環境配慮が求められる社会で、各社はどんな“NEW”を提示したのか。


街を走るSUVのメーカー名が即わからない。他人がもつスマホの識別も難しい。メカニカルな機能をもつモノの形状の優先順位が下がり、機能は電子を介した働きに依存する。似たような現象はインテリアの世界にもあり、特に主役たるソファのデザインが均質化している。良くも悪くも「無難」が蔓延するなかで、ユーザーインタフェースを左右するカラーの重要度が上がっている。
 
イタリアには、モノの形状や機能よりもCMF(Color=色、Material=材料、Finish=仕上げ)を重視すべきだと主張・実践したクリノ・カステッリというデザイナーがいる。彼が理論を適用したデザインを発表した1970年代以降、CMFは自動車、電子機器などさまざまな分野に適応された。製品単位でなく、製品群全体のカラーマトリクスを設定してカラーを選ぶのは、当時、先進的な手法だった。このCMFが今再び注目されている。

4月中旬、ミラノの広域で1週間にわたって開催されたミラノデザインウィークをこの視点でまわってみた。

機能よりも意味と感覚を

20世紀初頭、工業製品の大量生産にともなってモダンデザインが普及し始めた。「形態は機能に従う」という言葉のように、合理的な思考に基づくことが優先されたのだ。しかし半世紀以上が経過し、1980年代、モダニズムデザインを覆す動きが起こる。

その一躍を担ったデザイナーがエットレ・ソットサスだ。彼が主宰した「メンフィス」にはさまざまな国のデザイナーが参加し、ポップ文化に傾倒した、幾何学的でカラフルなデザインを生み出した。本を並べるスペースの少ない書棚、座り心地の良くない椅子のように、メンフィスの商品では機能性がほとんど無視されている。別の言い方をすれば、機能よりも意味が追求されていた。
デザインウィークに合わせ、ブレラ地区にある自社のギャラリースペースで「Livin’ Memphis」をテーマにした展示を実施。ダイニング、寝室などの部屋別に「メンフィスのある日常」を創出。プレイフルなアイテムの掛け合わせで来場者の感性を刺激した。

ブレラ地区にある自社のギャラリースペースで「Livin’ Memphis」をテーマに展示。ダイニング、寝室などの部屋別に「メンフィスのある日常」を創出した。(c)Ken Anzai

デザイン集団としての活動自体は10年ほどで終了したが、事業会社として継続していたメンフィスを、2年前に他のイタリアの企業が買収した。

「以前は欧州、北米、日本だけが市場だった。また、メンフィスに熱狂した若い世代には商品が高すぎて手がでなかった。今は積極的に商品や価格の幅を広げ、新興国や若い世代とつながりたいと思っている」とメンフィスミラノのアクセル・リベルティCOOは語る。答えよりも問い、機能よりも意味の模索が叫ばれる今、その環境は整ってきていると考えられる。
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文=安西洋之 写真=安西 健 編集=鈴木奈央

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