ターボジェットエンジン
動画では、パリャヌィツャの大きさや速度などの詳細は機密事項だとしつつ、エンジンはターボジェットだと明らかにしている。「ロケット」ドローンが「ジェット」エンジンを搭載しているというのは矛盾している(編集注:ロケットは空気を取り入れないので燃料を燃やすのに酸化剤が必要なのに対して、ジェットエンジンは空気を取り入れてその酸素で燃料を燃やす。弾道ミサイルはロケットエンジン、巡航ミサイルはジェットエンジンを搭載する)が、おそらく翻訳の問題だろう。ただし、ロケット推進式のドローンは存在していて、たとえば米レイセオン社の「コヨーテ」は旧型はプロペラ推進式だったが、最新型はロケット推進式になっている。パリャヌィツャに関するウクライナ側の説明は、何を「ミサイル」とみなすかをめぐって議論を巻き起こしている。ウクライナのオレクサンドル・カミシン前戦略産業相は、パリャヌィツャは「ドローンでもあり、ミサイルでもある」と地元紙キーウ・ポストに語っている。問題は厳密な定義が存在しないことだ。
自爆ドローン、武装デコイ、徘徊弾薬、巡航ミサイルなどの境界はあいまいで、仕様というよりもむしろ歴史によって規定されている。担う任務は同じであっても、ミサイルメーカーは新製品を概して巡航ミサイルと呼ぶし、ドローンメーカーは製品をドローンと分類する。第二次世界大戦中にドイツが開発したV-1飛行爆弾は初期の巡航ミサイルと言われることもあれば、最初のドローンとされることもある。当時は「ロボット爆弾」「空中機雷」などとも言われていた。呼び方はお好みでということだ。
一般にドローンは遠隔操作可能であり、ミサイルと違って発射時に目標を指定する必要がない。だとすれば、米国製トマホーク巡航ミサイルの最新型であるブロックVは「飛翔中の目標再指定」機能をもつので、これはむしろドローンと呼ぶべきなのかもしれない。実のところトマホークは武装デコイとして始められたプロジェクトであり、ミサイル/ドローンの線引きはもともとあいまいだった。
米空軍の旅客機サイズのRQ-4グローバルホークをはじめ、ジェットエンジンを搭載したドローンがたくさんある一方、ジェットエンジンを搭載したミサイルもある。巡航ミサイルに搭載されるジェットエンジンは大まかに2つに分類できる。ストームシャドーなどに採用されているターボジェットエンジンと、トマホークなどに採用されているターボファンエンジンだ。大雑把に言えば、ターボジェットエンジンのほうがシンプルで出力重量比も優れている半面、燃費は悪い。ストームシャドーのターボジェットエンジンとトマホークのターボファンエンジンを比べると、前者のほうが約50%大きな推進力を生むが、効率は後者のほうが50%高い。
巡航ミサイルのような攻撃ドローンはこれまでも使われており、それらもドローンと称されていることを踏まえれば、パリャヌィツャをドローンと呼ぶのは妥当だろう。ターボジェットエンジンを搭載しているという点からは、パリャヌィツャが高速攻撃に最適化されていることが推測される。これは「射手を殺す」というこの兵器の役割に完全に合致している。