欧州

2024.08.19 11:30

ウクライナのクルスク侵攻、宣伝戦でもロシアに痛撃 歴史的大失態を隠しきれず

「ウクライナはロシア国民の不安や恐怖を煽ることで、(この戦争についての)ナラティブ(物語)を変え、不安定な状況をつくり出し、それによってプーチンの支持を弱め、彼により有利な条件での決着を強いたいと考えています」とヘインズはみる。「つまり、ウクライナにとっては占領した領土そのものよりも、攻勢によって生み出されるニュースやうわさ話、恐怖のほうがもっと重要なのです」

蘇るクルスク戦車戦の記憶

ウクライナが侵攻した場所の重要性も軽視できない。クルスク州のクルスク市周辺は、1943年夏、ソ連赤軍がナチ・ドイツ軍を破った場所だ。有名なクルスクの戦いである。それまでの軍事史上、最大の戦車戦だったこの会戦でドイツは形勢挽回を図ったものの、敗北した。81年後、この地で再び守勢に回っているロシアは、前回と同じくらい負けが許されない状況にある。

ヘインズは「歴史的に重要な意味を持つ場所が攻撃されたのは偶然ではないでしょう」と話す。「第二次大戦でソ連が最も重要な勝利のひとつを収めた場所でロシアに敗北を喫させることには、ロシアの戦争努力全体をさらに暗く、不吉なものに見せるという意図があったに違いありません。ロシア国民に対して、これから良くないことが起こる前触れと感じさせるわけです」

ウクライナ軍の侵攻部隊が撃滅されない限り、いずれ撤退を余儀なくされても、2024年のクルスクの戦いはウクライナにとってプロパガンダ上の勝利になり得る。一方で、ロシア側が「勝利」を主張することも想定される。

南カリフォルニア大のキルシュナーは「ウクライナに好意的なコンテンツに関しても同じことが言えるかもしれませんが、ロシアが親ロシアのプロパガンダを広めるためにソーシャルメディアでの工作をよくやっていることは広く知られています」と語る。

「プロパガンダは特定の論調や立場が好まれる言説において拡散する傾向にあります。ロシアは長い間、とりわけ2016年の米大統領選以来、ソーシャルメディア・プラットフォーム上のコンテンツを占有したり操作したりしてきました。ロシアは損害を被るなかでも、ソーシャルメディアでこうした実証済みの戦術を駆使してメタナラティブ(大きな物語)を広めてきましたし、今後もそうし続けるでしょう」
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翻訳・編集=江戸伸禎

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