だが、6個前後の旅団と数個の独立大隊、そして複数の支援部隊から成る侵攻部隊は急速な進撃の代償として、貴重な装甲車両をかなりの数失っている。人員の損耗も数十〜百数十人にのぼる可能性がある。
一方のロシア側は狼狽した歩兵の十数人単位の投降が相次いでいるものの、車両の損失は数両にとどまっている。
ロシア側よりもウクライナ側の装備の損失が多いというのは異例だ。ロシアがウクライナで拡大して2年半近くたつこの戦争では概して、ロシア軍の車両の損失のほうがウクライナ軍の車両の損失を大幅に上回ってきた。
ウクライナ軍参謀本部にとって、これほどの損失が見合うものなのかは侵攻作戦の目的によるだろう。また、作戦が進むにつれてロシア側と損失率が逆転するかどうかでも評価は変わってくるかもしれない。
オランダのOSINT(オープンソース・インテリジェンス)サイト「オリックス(Oryx)」の集計によると、900日あまりにわたる戦争でロシア軍は戦車を1日平均4両近く、歩兵戦闘車や装甲兵員輸送車などの歩兵用車両を8両近く失っている。ウクライナ軍は、戦車の損失が1日平均1両、歩兵用車両の損失が3両ほどとなっている。
クルスク侵攻では様相が異なっている。8月6日、ロシア側の防御の隙を突いて越境攻撃に乗り出したウクライナ軍は、しばらく静的な状態にあった戦争に機動性を取り戻した。これまでは、双方とも塹壕から戦い、一度に数百m以上前進するのに難渋してきた。
しかしウクライナ軍の機動は、戦車や歩兵用車両をロシア軍のドローン(無人機)攻撃や砲撃、待ち伏せ攻撃にさらしている。オリックスのアナリストのひとりによれば、侵攻10日目の15日までにウクライナ側は戦車を4両、歩兵用車両を41両も失った。これには希少な英国製チャレンジャー2戦車1両や、米国から供与されたストライカー装輪装甲車数両が含まれる。