それでもダメージは生じている。ウクライナは領土以上のものを勝ち取った。クルスク侵攻はウクライナにとって、ソーシャルメディア上のプロパガンダ(宣伝)戦で最新の大成功になったからだ。ロシアの最も熱烈なプロパガンディストでさえ、この状況を取りつくろうことはできない。
ロシアにとっては、この侵攻は国民から隠し通すのが困難な新たな失敗になった。隠すのが難しいのは、ソーシャルメディア時代にあってはニュースは瞬時に広まるからだ。
南カリフォルニア大学コミュニケーション・ジャーナリズム大学院のジュリアナ・キルシュナー講師は「クルスク州でのウクライナの進軍はロシアとウクライナの戦争で決定的に重要な瞬間になりました」と話す。「ソーシャルメディア・プラットフォームが引き続き主要なニュース源となるなかで、ウクライナの現在の攻勢もそれらのスペースで、とくにロシア中心の視点をもつユーザーやグループによって、偏った解釈をされながら話題にされていくでしょう」
戦争を日常に持ち込む
ロシア当局は、今回の侵攻は襲撃だとし、ウクライナ軍はすぐに押し戻されるとの見解を示している。だが、これは第二次世界大戦以来、外国の軍隊によるロシア領土への最大規模の侵攻であり、ソーシャルメディアで見て見ぬふりをするのは難しい。ロシアの政権はキーウを3日で占領すると約束していたが、それを果たせないまま2年半が経過している。そしてウクライナ軍はすでにクルスク州に2週間近くとどまっている。
ニューヘイブン大学のクリス・ヘインズ准教授(政治学)はこの侵攻がもたらす影響をこう解説する。「ウクライナが占領した領土を保持できれば、ロシアへの侵攻は交渉カードとして使えるかもしれませんが、ウクライナの攻勢による影響はむしろ、戦争を一般のロシア人の居間やおしゃべりの場に直接持ち込むというものになる可能性のほうがずっと高いでしょう」