当時、アウジーウカのすぐ北西のオチェレティネ村一帯の陣地は、ウクライナ軍の第115独立機械化旅団が引き継いだばかりだった。ロシア軍の第30独立自動車化狙撃旅団はその陣地を突破し、西へ数km一気に前進した。ロシア側は突破口に増援部隊を送り込み、支配地を広げつつ固めていった。
3カ月後、同じ方面で同じようなことが起こっている。ロシア軍の連隊や旅団はこの1週間で、オチェレティネから西へさらに6km前進した。
1日1km弱の前進というのはそこまで速くないと思えるかもしれないが、ロシア軍のこれまでの前進ペースからすれば「疾走」と言えるような速さだ。ウクライナの著名な戦場記者ユーリー・ブトゥソウは、この方面の状況は「危機的だ」と報告している。
ロシア軍は途方もない数の人員を損耗し続け、「機械化」が徐々に後退するほど装甲車両も大量に失っている。そうしたなかでは、3年目に入る全面戦争でロシアが依然としてウクライナに対して保っている優位性を見失いやすい。
だが、ロシア側は人員の数も重装備の数もウクライナ側よりまだ多い。さらに独裁体制だからできる政治的な締め付けもあり、ロシアはウクライナよりもはるかに大きな損失を許容できる。
だからロシア軍は1日に1000人以上のペースで死傷者を出しながら攻撃を続けている。そして、すべての攻撃には突破のチャンスがある。
オチェレティネ周辺でのロシア軍の急速な前進は、ウクライナ軍の指揮官たちの混乱も一因だろう。4月の突破によってウクライナ側はバランスを崩され、立て直すのにいまだに苦労している。
ブトゥソウによれば、ロシア軍の司令部は「統率と組織化が最も弱い旅団を優先して攻撃する」という。これは第110独立機械化旅団と第111独立領土防衛旅団のことを指しているようだ。ブトゥソウは「敵が探り出して押し込もうとしているのは最も脆弱な防衛線ではなく、最も脆弱な部隊なのだ」と解説している。