この方面に配置されているウクライナ軍部隊にとって、状況は絶望的だ。ロシア側がオチェレティネ方面につくり出した攻勢軸の周辺で、ウクライナ側が複数の村を失うのは避けられそうにない。
だが、本当に危険なのは、ウクライナ軍の「タウリヤ」作戦戦略部隊集団(アウジーウカ市の西方面の部隊を統括する司令部)が「損切り」をする、つまり西へ数km後退し、オチェレティネ村の北から南西に走る新たな防御線を固める以外に手がなくなることだ。
撤退を強いられれば、ウクライナ側は数十〜数百平方kmの領土をロシア側に明け渡し、住民数百人が避難するか、ロシア軍による過酷な占領下での生活を送ることを余儀なくされるだろう。
だが、それにとどまらないかもしれない。撤退は、うまく進めなければ、ロシア側に局所的な攻撃を強化し、第2、第3、第4の突破口を開く機会を与えかねない。その結果、この方面のウクライナ軍は連鎖反応的に総崩れになる恐れもある。
撤退は、それが最良の選択肢である場合ですら、きわめて危険だ。規律ある軍隊はだからこそ、後退作戦を、攻撃作戦と同じくらい、あるいはそれ以上に入念に立案する。「どんな指揮官、どんな軍隊にとっても、撤退は最も難しい作戦である」と歴史家のアンドルー・O・G・ヤングは『Armies in Retreat: Chaos, Cohesion and Consequences(仮訳:軍隊が撤退するとき──混沌、結束、結果)』という本に書いている。
ロシア軍が4月第3週の週末、アウジーウカ西方のウクライナ側の防御線をどのように突破したのかについては、ウクライナの政府や軍の首脳部でも、ロシアがウクライナで拡大して2年2カ月あまりたつ戦争のおよそ1000kmに及ぶ戦線の各方面でも、激しい議論を呼んでいる。