“失われた30年”を乗り越えた日本企業の「中から変わる力」

阿部修平 スパークス・アセット・マネジメント株式会社代表

日本だけがデフレになった理由

阿部:この消費者物価指数のグラフでいえば、日本とアメリカで形は似ているんだけども、日本は基本的にゼロ以下、つまり前年比よりもマイナスになっていますよね。たまに跳ねあがっているのは、それぞれ消費税引き上げのタイミングです。
advertisement

藤吉:このあたりが黒田さんが「〝失われた30年〟の萌芽は1980年代からあった」と指摘するゆえんですよね。しかし、なぜ日本だけデフレになってしまったんでしょうか。

阿部:中国がグローバル市場に組み込まれたことで、日本は世界の工場の地位を中国に明け渡します。中国の安い労働力を使うことで、製品の価格は下がります。とりわけ日本においてはこの時期、「価格破壊」が経営や投資におけるキーワードになっていました。

藤吉:グローバル化による熾烈な価格競争がデフレを助長したんですね。
advertisement

阿部:それが“失われた30年”を招いた最大の原因です。つまりデフレで給料は上がってないのに、みんなそれほど文句を言わなかったのは、モノの値段が安かったからです。普通に生活している分には「貧しい」と感じることもなく、そこそこ満足できた。

ただ、その間に中国を始めとする世界はどんどん成長していることを、日本人はこの時期、ほとんど意識してなかったよね。それで日本の地位は相対的に低下していきました。

藤吉:日本の場合、企業努力でデフレを我慢できてしまった、とも言えますね。

阿部:そこは重要なポイントだと思います。ただそれはマイナスばかりとも言えない。デフレの厳しい環境の中で生き抜いてきた日本企業は、これから物価が上がっていく環境では面白くなると僕は思ってます。

経済学者のなかには、これから人口減少社会を迎える日本の先行きは暗いみたいなことを言う人もいますが、それは間違いだと私は考えています。

日本ブランドを求めるアジアの新富裕層 

阿部:まず、このグラフを見てください。アジア主要国における富裕層(年間可処分所得3万5000ドル以上)の人口変化を示したものですが、2020年時点で中国には既に1億5000万人以上の富裕層がいます。これは日本の全人口をはるかに越えるボリュームです。インドやASEAN諸国まで含めたアジア全体で見れば、2020年時点で富裕層は1.9億人ですが、これが2030年には、6.5億人にまで膨れ上がります。

 
出所:Euromonitor, UN, SPARX

出所:Euromonitor,UN, SPARX


次に考えるべきことは、「では、この新たな富裕層は何を消費するのか?」ということなんです。その答えは、例えば「サイゼリヤ」です。

藤吉:確かにサイゼリヤは中国に進出して、業績を伸ばしています。

阿部:今やサイゼリヤにとって中国は“草刈り場”です。面白いのは、日本におけるサイゼリヤと違って、中国では安さを売りにしてないんです。むしろ日本発のちょっと高級なイタリアンとして、中国の富裕層の間では認知されてます。

藤吉:日本の外食産業でいうと、「すき家」のゼンショーグループや丸亀製麺もアジアで人気ですね。「すき家」もアジアでは高級路線で、売上も過去最高を記録しています。

阿部:そうなんですよ。つまりアジアの富裕層は日本企業をブランドとして認識している。これだけの市場がアジアに広がっているのに、「日本は人口が減っていくからお先真っ暗」というのは、ナンセンスだと僕は思うんです。
次ページ > アジアの新富裕層が「次に欲しがるもの」

text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

連載

市場の波をつかむ12の方法 スパークス代表・阿部修平×Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事