“失われた30年”を乗り越えた日本企業の「中から変わる力」

阿部修平 スパークス・アセット・マネジメント株式会社代表

アジアの新富裕層が「次に欲しがるもの」

藤吉:しかも、このグラフの2030年って、もうすぐですよね。
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阿部:そう。あと6年で新たな富裕層が4億人生まれてくるんです。彼らが消費するのは、日本の飲食チェーンばかりではありません。じゃあ、「次に彼らが買い求める日本製品は何か?」と考えたら、ウチのアナリストは例えば「エアコンだ」と言ってるんです。

藤吉:そういえば前回、日本の三菱電機製のエアコンがアメリカですごいシェアを占めているというお話がありましたね。 

阿部:エアコンって2050年までのセクター別の総電力需要の伸びで見ると37%を占めているんですよ。
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藤吉:超巨大市場ですね。

阿部:しかも日本でエアコンといえば、100%インバータ(電圧・電流・周波数を変換する装置)付きですが、海外ではまだ全然普及していません。僕もアメリカに住んでいたから分かるけど、向こうのエアコンは温度設定したら、設定温度になったら停止して、また温度が上がり出したら、動き出すという単純なオン・オフしかできません。

これがインバータ付きなら設定温度まではフルパワーで動き、設定温度になったら低速運転に切り替えることができる。だから消費電力もかなり抑えられます。

当然、海外でもインバータ付きエアコンの需要は高まっていて、そこにアジアの新たな富裕層が加わってくる。だから三菱電機とかダイキンとかエアコンを作っている会社は、これから面白いと思います。

「人」と「設備」を残す日本企業

藤吉:三菱電機はもともとテレビとか洗濯機といった白物家電を作っていましたよね。

阿部:ただ、1985年のプラザ合意で円高がトレンドになって以降は、工場は基本的に海外に移転してしまいました。でもエアコンは脈々と作り続けていたんですね。人も設備も残していた。そこが日本企業の面白いところです。これがアメリカだったら、家電部門はまっさきに切り捨てるという選択をするはずです。

藤吉:GEとか、もう家電は作ってないですもんね。

阿部:その決断の速さとスピード感はアメリカの強みでもある。アル・ゴアが副大統領時代に「情報スーパーハイウェイ構想」を推し進めて、インターネットが一気に普及したのもその最たる例です。

この時点でアメリカはソフト化に舵を切り、経済の中心はシリコンバレーに移った。彼らは、モノづくりは捨てたんです。自動車産業が盛んだったデトロイトの周辺地域は衰退し、〝ラストベルト(Rust Velt:錆びついた工業地帯)〟と呼ばれるようになった。トランプの支持者はこの地域に住む〝見捨てられた人たち〟ですよね。

デフレ時代の戦略として、モノを持たないという戦略は正しかったんだけど、その戦略がまたアメリカ国内に新たな分断を生んでしまったともいえます。

一方で日本の場合は、デフレだろうとモノづくりを捨てなかった。この時代に我慢して設備と人を守り通したからこそ、今、日本のエアコンが世界で求められているわけです。

藤吉:やっぱり技術者は一度切ってしまったら、もう育てられない。

阿部:そうなんです。逆に言うと、人と技術さえ残っていれば、後で何とでもなる。TSMC(台湾積体電路製造)が熊本に新たな半導体の工場を作ったのも、円安とか地政学的な要因もあるんだけど、一番の理由は人と技術が残っていたからです。

それぐらいモノづくりって、参入障壁が高いんです。モノを作るというのは、一朝一夕にはいかない。あのAppleが「アップルカー」を作るというので一時話題になりましたが、つい先日、中止になりましたよね。車は電話と違って、見た目が良くて動けばいい、というものじゃない。安全性はもちろんんこと、乗り心地まで含めて、トヨタが追及しているのと同じレベルで作るというのは、並大抵のことじゃないんです。
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text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

連載

市場の波をつかむ12の方法 スパークス代表・阿部修平×Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春

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