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事業継承

2024.07.24 13:30

荒廃農地を公共残土でよみがえらせる「土建イノベーション」

「残土処理場をただの『山』ではなく『商売ができる土地』にすると考えれば、どんな事業者もええ加減なことはせず、もっときっちり整備するようになると思うんです。耕作放棄地を残土でよみがえらせた土地でできた農作物には社会的な価値がある。だから『高い値段で買いますよ』という風潮が生まれれば、全国でまねする人も増えるはず」
 
そんな思いで、昨年、家業で培った「残土の受け入れ」と「農業」のノウハウを生かし、農地として復活させる新規事業へと踏み出した。
左側は田んぼとして使われている土地。右側は堀が京丹後市内に購入した約1ヘクタールの荒廃農地。

左側は田んぼとして使われている土地。右側は堀が京丹後市内に購入した約1ヘクタールの荒廃農地。

動き出してからまだ1年ほどだが、すでに第一弾として京丹後市内に約1ヘクタールの土地を購入し、残土の受け入れ地にするための地目変更など申請手続きを進めている。土を別の場所からもってきて田んぼのかたちを整える「圃場整備」は、農林水産省や都道府県などにより各地で行われているが、堀があえて選ぶのは、道路より低い窪地にある農地だ。公共残土を受け入れて盛り土をし、土地を平らに造成すれば、残土処分による利益を担保できる。また、耕作放棄地の売買には、市町村に設置される行政委員会の農業委員会の許可を得なければならないが、農業も手がける同社は農業委員会の一員でもある。地元からの理解が得やすいのが強みだ。

「新規参入の企業が『木が生い茂って荒れたこの土地を農地にします』と言っても、『(残土処理の)お金だけもらって、逃げるんちゃうんか』と疑われ、突っぱねられて終わりです。地元で何年も農業をしてきたからこそ『マルキさんが無責任に逃げるわけないか』『マルキさんだったら農地として仕上げるだろうで』と理解も得やすい。ある意味、逃げられないのはアトツギの宿命でもありますけどね(笑)」
 
土地購入と並行して、何をつくるかの試行錯誤も重ねている。当初は稲作をして米粉を生産・販売する計画だったが、「米粉の壁にぶち当たった」と堀。米粉は小麦アレルギーの人が代替食品として選ぶことも多く、高い品質を担保するには製粉施設に億単位の投資が必要だとわかったためだ。

「米粉も完全に諦めたわけではないのですが、周りから『うちのビールにする麦をつくってほしい』『この辺りは丹波の黒豆が有名だから枝豆がいいんじゃないか』などと、加工の手間なく納品できる作物のアドバイスを聞くたびに、どれが良いのか迷っています。造成する形状により、稲作でも枝豆でも何でもつくれるのがうちの強み」
 
ゆくゆくは契約栽培による生産や、京丹後市産にこだわった料理を提供する飲食店や宿泊施設とのコラボを目指し、仲間づくりにも力を入れていく。「土地に合った農作物なら何でもつくれるし、牛の放牧だってできる。この輪が全国に広がって、いつか『荒廃農地ニンジン』『荒廃農地ジャガイモ』が入った土建屋レトルトカレーなんてつくれたら面白いですよね」。構想は膨らむばかりだ。
 建設業のかたわら約20年前か ら米の栽培も始め、現在12町歩を管理。

建設業のかたわら約20年前から米の栽培も始め、現在12町歩を管理。

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文=堤 美佳子 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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