事業継承

2024.04.23

ベンチャー型事業承継・山野千枝が語る、非合理な「老舗大国」と出島戦略

ベンチャー型事業承継代表理事 山野千枝

日本は世界に誇る「老舗大国」だ。帝国データバンクによると、業歴100年を超える老舗企業は、4万3600社を超えたという(2023年9月時点)。後継者不足や廃業率の急増がニュースになるなか、老舗企業は毎年約2000社のペースで増え続けている。業種別では、規制の影響で新規参入が難しい清酒製造や、旅館など日本ならではの老舗のほか、土木工事や木造建築工事も上位を占める。なぜ日本には老舗企業が多いのか。

Forbes JAPAN4月号のスモール・ジャイアンツ特集では、アトツギたちの学びのプラットフォームを手がけるベンチャー型事業承継代表理事の山野千枝に聞いた。


日本の中小企業には世代を超えて続いてきた長寿企業が多く、ビジネスを考えるうえでの時間軸が長いと考えています。海外からも「なぜ日本の企業は長く続くのか」と注目されています。そこには経済合理性だけでは説明のできない非合理な理由があると感じています。

事業を継いだ経営者が新規事業や業務改善に挑戦する「ベンチャー型事業承継」を提唱し、全国のアトツギたちとのネットワークを広げてきましたが、実はカスタムジャパンの村井基輝社長が名付け親です。IT業界で培った知見と家業であるバイク部品販売業のノウハウをかけ合わせて、バイク・自動車部品の通販事業を手がける会社を自ら創業しました。家業の卸売業をECに転換して売上を10倍以上に伸ばしつつも、父にならい企業を存続させるために心がけたのは堅実経営です。単なる後継者ともスケールアップを追い求めるスタートアップとも違う自身のスタイルをそう名付けたのです。

昨年、私はカタカナ表記のアトツギに込めた意味をこう再定義しました。「先代から受け継いだ価値を、時代に合わせてアップデートすることで、その次の世代に託す時まで、存続にコミットする個人」。会社の継ぎ方が多様化するなかで、アトツギになるのは家族でも社員でも第三者でもいいと考えています。世代交代は古い組織体のうみを出す良い機会です。組織風土の改革や業務改善、下請けからの脱却、新規事業に主軸を移し業態転換する企業も多くいます。アトツギの最大のミッションは成長や拡大よりも「存続」です。

なかでも私は、アトツギが主業と切り分けて出島型組織をつくるのは存続のひとつの道だと注目しています。急速に変化する時代のなかで老舗企業がイノベーションを起こしていく手法に未来を感じています。非合理とも言える熱い思いをもった経営者たちが次世代へと価値のバトンをつないでいくでしょう。


山野千枝◎1969年生まれ。コンサルティングや中小企業支援を経て2018年に一般社団法人ベンチャー型事業承継を設立。後継者の学びのプラットフォーム「アトツギファースト」を運営。千年治商店代表取締役。関西学院大学大学院などで非常勤講師。著書に「アトツギベンチャー思考」(日経BP)、「劇的再建」(新潮社)

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文=督あかり

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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