家業の宝を生かした出島型のスタートアップ、医師を続けながら家業を継いだ二刀流経営、売上の規模拡大が目的ではないM&A、自社だけでなく地域とともに発展を目指す組織変革──これらの事例にはこれからの会社存続のヒントが散りばめられている。(発売情報はこちら)
アスター|家業×出島戦略で世界の課題解決へ

鈴木の父が1989年にエスジーの前身となる会社を設立。足場を組まない低コストの外壁塗装工法など、ユニークな技術開発で建物改修を手がけてきた。そこで生まれたのがAsterの耐震塗料のもととなったコンクリートの補強材「SG-2000」だ。鉄の10倍の強度にもなるガラス繊維が塗料に混ぜ合わされ、塗るだけで建物の強度を増すことができる。エスジーでは研究開発に携わり、2014年に社長就任。大学や企業らが連なる防災研究会に入ったのを機に、耐震塗料の可能性を探るようになった。東大の地震工学の専門学者らと改良を重ね、19年にAsterを起業した。同時にエスジーの社長を退き、今は役員としてかかわる。

JICAや研究機関らと組んで、実証実験などを展開。フィリピンでは日系企業とタッグを組み、大型受注による収益化を見込む。鈴木は「今のままだと日本の産業は沈没してしまうという危機感をもっている人は少なくない。そんな閉塞感にモヤモヤしている跡継ぎは多い。海外に目をやれば、世界にスケールできる技術や人材を生かせるポテンシャルはあると思います」と語る。鈴木のように家業の宝を生かし、本体から切り離した「出島型」組織でイノベーションを起こす事例が広がりつつある。

鈴木正臣◎静岡県の建物改修専門メーカー、エスジーの創業者である実父の体調不良に伴い、米国への留学半ばで帰国、家業を継承。ブロックや石などを積み上げてつくる建物に耐震性を付加できる、世界初の耐震塗料を開発・製造するAsterを起業。「建物倒壊による地震犠牲者ゼロ」をミッションに掲げ、国内外で高い評価を得る。