事業継承

2024.03.15 12:00

多様化する新・事業承継 注目の4社に学ぶ会社存続のヒントとは

友安製作所の事例。オープンファクトリー「FactorISM」が生まれるきっかけとなった、みせるばやおは23年内閣総理大臣表彰「ものづくり日本大賞」を受賞した

由紀ホールディングス|成長を続ける「町工場集団」の偉業

由紀ホールディングス(HD)は、一般的な「町工場の事業承継」を超越した形で急成長している。大坪正人社長が今追求しているのは、売り上げ規模の拡大ではなく、M&Aで得た町工場の要素技術と先端産業のニーズをマッチングした「研究開発型シフトによる技術の存続」だ。
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大坪は、ベンチャー企業のインクス(現ソライズ)での6年間で金型製造に革命を起こしたのち2006年に家業の由紀精密に3代目として入った。精密加工技術を生かして航空宇宙産業に参入するなど事業領域を拡大。リーマン・ショックの直撃を受けながら自ら新規開拓をして、宇宙ゴミ除去に取り組むアストロスケールなどと協業。10年連続黒字・毎年平均10パーセントの成長を実現した。それだけで十分なサクセスストーリーだが、さらに17年に由紀HDを設立し町工場の支援を開始する。
スペースデブリ除去技術実証衛星 「ELSA-d」 捕獲機構=アストロスケール提供。由紀精密が設計・製造。

スペースデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」捕獲機構=アストロスケール提供。由紀精密が設計・製造。

グループ化対象は社会から必要とされる分野へ展開できる技術力をもつ町工場。由紀HDが営業や広報の機能を提供、それぞれの町工場はものづくりに集中させる。18年1月にグループ化したワイヤ製造の明興双葉の場合、事業部長クラスを役員に抜てきし電気自動車・ハイブリッド車向け製品など成長分野に経営資源を集中投下、売上高を2年で倍増した。それを23年4月にバトン承継したのは、急成長に合わせた投資環境が必要と考えたためだ。同年2月に新会社「日本超電導応用開発(JSA)」を設立し、極細超電導ワイヤの研究開発を手がけるチームをグループに残した。
極細超電導線の電子顕微鏡写真=NIMS(物質・材料研究機構)提供

極細超電導線の電子顕微鏡写真=NIMS(物質・材料研究機構)提供

電気抵抗がゼロになる超電導材料は、超強力な磁力を発生するコイルや、ロスのない送電線を実現できる。世界中で開発競争は激しいが、陶器のようにもろい超電導材料を「細いワイヤにできると考える人はほとんどいなかった」(大坪社長)という。細い線をつくる専門家である技術者が金属間化合物である超電導材料の加工にゼロから挑み、無数のサンプルをつくり、条件を変えてはテストを繰り返し、直径15マイクロメートルで自在に曲がる超電導材料を実現した。巻いてコイルを作り、束ねることで大容量を実現し、産業用途で利用可能な液体水素(マイナス253度)で超電導状態にできる。核融合発電やリニアモーターカー技術の実用化に道を開く材料としてサンプル出荷を始め「2030年には大きな利益になる」とみている。

大坪正人
◎1975年生まれ。東京大学工学部卒、東京大学大学院工学系研究科(産業機械工学)修了後、3Dプリンタサービスを展開していたインクス(現ソライズ)を経て2006年由紀精密に入社。13年代表取締役社長に就任し、21年には当時技術開発事業部長だった永松純に承継し、代表取締役に。17年10月由紀ホールディングスを設立。
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