欧州

2024.03.14 10:30

「面」制圧に威力のATACMS、米がウクライナに追加供与 前回はヘリを大量破壊

安井克至
それから約1週間後の10月25日、ウクライナ軍はATACMSによる2回目の攻撃を行った。今度の目標はロシア空軍がルハンシク州に配備していた地対空ミサイルシステムだった。2発のM39から取れた尾翼の映像や写真でATACMSの使用が確認され、また、煙が立ち上る映像から、攻撃を受けたのはS-400地対空ミサイルシステムだったとロシアのソーシャルメディアユーザーによって特定された。

ロシアがウクライナでの戦争を拡大するのに先立って、ロシア空軍はロシアの占領下にあるウクライナ南部クリミアにS-400の発射機5基やそのレーダーなどを配備した。その後、ほかのS-400もクリミア各地に置くようになった。ウクライナ側は昨年、より高性能の遠距離攻撃兵器を多く取得できるようになると、クリミアのS-400を攻撃し始めた。

オランダのOSINT分析サイトのオリックス(Oryx)の集計で、ウクライナ側はこれまでにロシア軍のS-400の発射機6基、指揮車1両、レーダー1基を撃破したことが確認されている。これらはS-400のシステム1.5基分に相当する。

これら2回の攻撃のあと、ウクライナがATACMSを用いた大規模な攻撃を何回実施したのかは不明だ。最初の供与分の20発程度というのはけっして多くない。だが、ウクライナ側がこの強力なミサイルを浪費したと非難することはできない。

ウクライナ側は新たに供与される分も無駄にしないはずだ。今回の追加援助にM39が何発含まれるのかはわからないが、ウクライナに届き次第、ロシア軍のヘリコプター基地や防空システムといった軟目標に降り注ぐことになりそうだ。

ロシア側はATACMSによる新たな遠距離攻撃作戦で装備などに大きな損害を出すだろうが、この作戦もまた長くは続きそうにない。M39の第2弾が尽きると、米国がウクライナに次の分を提供できるのはしばらく先になるかもしれない。ホワイトハウスは基本的に、ウクライナに渡す兵器は米軍の在庫から回しているが、そのためには国防総省が在庫の減少分を補充する財源を確保していなくてはならない。

この財源は昨年12月に枯渇したと思われていた。その2カ月前、バイデン政権の610億ドル(約9兆円)規模の対ウクライナ追加支援予算案を、議会のロシアに融和的な共和党議員らが阻んだからだ。だが今回、国防総省は、以前に執行されたウクライナ向け兵器契約を見直して節約することで、3億ドルを捻出したという。

ウクライナへの追加支援を通すには、米政界の大きな転換が求められそうだ。与党・民主党の議員らは、下院議員の過半数の支持があれば下院議長を介さずに法案を本会議で採決にかけられる「委員会審査省略動議(discharge petition)」と呼ばれる異例の対応を試みている。共和党議員からの最低限の支持があれば、下院は追加支援法案の採決を強行できる。

この動議は12日に署名集めが始まった。下院の現在の勢力図は共和党219人、民主党213人で、共和党から5人が賛成して218人の署名が集まれば、動議は可決される。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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