とはいえ、あまり興奮しないほうがいいだろう。これは小規模な越境襲撃にすぎず、場所もウクライナ側もロシア側も大きな突破が期待できるような方面ではないからだ。
もちろん、ウクライナ北東部スーミから北へ50kmほど離れたロシア南西部クルスク州の町チョトキノへの襲撃が、無意味だというのではない。プロパガンダ上の価値は別として、襲撃によってウクライナ側はロシア軍の一部部隊を前線から引き離せるだろう。
一方で、ウクライナと国境を接するロシア南西部ベルゴロド州に対するもう1つの襲撃は、ウクライナ軍部隊を前線から引き離すことにもなり、これは問題になる。
ウクライナ国防省情報総局隷下の外国人部隊の1つである自由ロシア軍団などは、11日から12日にかけての夜か12日未明、越境襲撃を始めた。同軍団もしくはその支援部隊は襲撃を進めるなかで、ベルゴロド州の上空でロシア空軍のスホーイSu-27戦闘機1機を撃墜したとの情報もある。
自由ロシア軍団には、ロシアの独裁者ウラジーミル・プーチンの体制に対抗するロシア人が参加している。各数百人の2個大隊からなり、以前はウクライナ東部アウジーウカ市内や周辺で過酷な市街戦を戦った。
自由ロシア軍団はチョトキノに隣接する国境検問所で問題に直面したようだ。どうやら、保有するT-64戦車の一両が地雷を踏んだらしい。それでも十分な数の兵士らが国境を越え、チョトキノに駐留する警官や兵士を駆逐した。軍団の兵士らが侵入先で壕に身を隠すなか、反撃してくるロシア側にとって「厳しい夜」になるだろうと軍団の報道担当者は予告している。
反撃は避けられない。自由ロシア軍団やほかの志願兵部隊は昨年の春以降、越境襲撃を数回行い、ロシア兵数人を捕虜にしたりロシア側の車両数両を撃破したりしたこともあった。いずれも、より大規模で強力なロシア軍部隊が攻撃のために集まってくると、越境部隊は撤収している。
チョトキノへの襲撃に関して、いつもとは違う結果になると期待できる理由があるとすれば、それはこの町周辺の独特な地理的条件だろう。チョトキノは、ウクライナ領の方向に凸状に突き出た65平方kmほどの土地の中にあり、北東以外の3方向をウクライナ領に囲まれている。ロシア側にとってさらに不都合なのは、町の西側に川が流れていることだ。そのため、ロシア側からチョトキノに入るルートは1つしかなく、機動の余地は非常に限られる。