ニューヨーク・タイムズ紙は、トラウマを負ったウクライナ海兵の証言として、この渡河作戦は数で劣るウクライナ側にとって「自殺任務」と伝え、反響を呼んだ。だが実際のところ、ウクライナの海兵を橋頭堡から駆逐するために向こう見ずな戦術に訴え、数百人単位の戦死者を出しているのは、むしろロシア側である。しかも、これまで駆逐に失敗している。
ウクライナの海兵隊はクリンキで持ちこたえているだけでない。敵に攻撃を加えて撤収する襲撃のためか、あるいはより可能性は低いが2つ目の橋頭堡を築くために、時々ほかの地点でもドニプロ川を渡っている。
それがなぜわかるかというと、ロシア側はウクライナの海兵がいる場所を特定して攻撃することがあるからだ。ロシア側によるその報告を通じてウクライナ側の最新の渡河作戦が明らかになる。
直近では、海兵隊の部隊はクリンキの西30kmほどのアントニウスキー橋付近でドニプロ川を渡り、かつて保養地だった集落ダチに潜んだ。ヘルソン市の近郊にあるアントニウスキー橋は以前に爆破されている。ウクライナのシンクタンク、防衛戦略センター(CDS)の8日の戦況評価によると、海兵はダチの複数のダーチャ(別荘)で陣地を保持している。
これらの海兵がどのようにして渡河し、ダーチャに潜り込んだのかも、ロシア側のソーシャルメディア投稿から明らかになっている。ロシア側のドローンに対するジャミングを行い、上空からの監視や攻撃をできなくしたのだ。
ただ、こうしたジャミングはおそらく恒常的なものではないのだろう。常に電波を妨害しているとウクライナ側のドローンにも支障が出ると思われるからだ。ウクライナ側は電子戦と部隊の動きを調整しているとみられる。つまり、ドローンが活動できないデッドゾーンを一時的につくり出し、そのデッドゾーンを利用して部隊を動かしているもようだ。