食&酒

2024.03.08

戦時下でもワインを造る ウクライナのワイナリーの日常

ウクライナ西部ザカルパッチャ州ベレホベ近郊に広がるブドウ畑(Serhii Hudak/ Ukrinform/Future Publishing via Getty Images)

自国が戦火にさらされる中でワインを造ろうと思える人は、なかなかいないだろう。しかし、ウクライナには今も生産を続けているワイン農家や醸造家がある。ロシアがウクライナに侵攻してから、先月24日で丸2年を迎えた。戦場は東部国境沿いから南部の黒海沿岸まで広がっている。そこは、ウクライナのブドウ畑のほとんどが広がっていた地域でもある。

それだけに、今こそ勇気あるワイン生産者たちに思いを馳せ、その仕事ぶりをじっくりと見てみるまたとない機会かもしれない。ドイツ・デュッセルドルフで今月開催される世界最大のワイン・アルコール飲料見本市「ProWein(プロヴァイン)」で、ウクライナ産ワインを味わうことができる。

ウクライナは農業大国だ。ヒマワリ、大麦、小麦、トウモロコシの生産量は世界で上位10カ国に入るが、いずれも戦争で深刻な打撃を受けている。一方、ブドウ畑の面積は約3万ヘクタール程度と控えめで、ハンガリーやブルガリアの約半分、米カリフォルニア州の6分の1しかない。公式に登記されたワイナリーは約160場ある。

ウクライナのワイン生産地は、主に国土の南部、黒海に面したオデーサ州とケルソン州に集中している。戦争報道で見おぼえのある地名だろう。クリミアも昔からワイン造りが盛んな地域だったが、2014年にロシアの侵攻を受けて以降は占領下にある。ハンガリーやスロバキアと国境を接する最西端のザカルパッチャ州にもブドウ畑が広がる。規模は小さいが、ほかの幾つかの地域にもワイン生産者はいる。

ブドウの希少品種や土着品種がワイン業界のトレンドとなっている今、ウクライナはワイン愛好家や新しもの好きな愛飲家にさまざまな選択肢を提供してくれる。土着品種だけでもたくさんある──テルティ・クルック、スホリマンスキー白、マガラッチ・シトロニー、コクール、オデーサ黒、エキム・カラ、マガラッチ・バスタードなどだ。

筆者は先日オデーサ黒で造られたワインを味わう機会を得たが、確かに「黒」だった。濃密なコクがあり、色はほぼ黒といってよく、果実味が非常に豊かで骨格がしっかりしていた。このブドウはフランス語でタンテュリエと呼ばれるタイプで、果汁が濃い赤色をしている(黒ブドウのほとんどは果汁は透明だ)。カベルネ・ソーヴィニヨンと、タンテュリエのアリカンテ・ブーシェの交配種で、1950年代にウクライナで開発された。

もちろん、ウクライナでは多くの国際品種も栽培されている。

2023年のウクライナのワイン輸出額は900万ドル(約13億4800万円)にとどまったが、これは驚くべきことではないだろう。それよりも驚きなのは、戦争が激化する中でもウクライナがワインを生産し、輸出してのけたという事実だ。

ウクライナにはWines of Ukraine(ワインズ・オブ・ウクライナ)という輸出促進団体があり、今月10~12日に開催される「ProWein」に参加する。ウクライナの全生産者の10%にあたる16場のワイナリーが出展する。珍しいワインを発見できるだけでなく、戦時下の国を支援する点でも絶好の機会となることは間違いない。

ウクライナでは、ワイン分野をはじめとする農業ビジネスの支援・発展を図り、米国際開発庁(USAID)、国連、スウェーデン政府などによる複数の国際プロジェクトが進行中だ。

forbes.com 原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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