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2024.02.02 08:00

「赤い口紅で希望を」戦禍のウクライナで化粧品を売る女性たち

Shutterstock.com

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2022年2月にロシアからの侵攻が始まった直後に、ウクライナのリヴィウに住むマリチカ・ルカノワのもとには、彼女と2人の子どもの無事を確かめるための、家族や友人からのメッセージが押し寄せた。幸いにも彼女の一家は無事だったが、ルカノワは自分のビジネスの先行きを案じていた。

「戦争の真っ只中の国で、化粧品を欲しがる人がいるだろうか?」と彼女は自分に問いかけた。

しかし、驚いたことにその後、顧客の1人が、ルカノワが販売するMary Kay(メアリー・ケイ)の美顔クリームを、使い切る前に買い足したいというメッセージを送ってきた。「彼女は、たとえロケット弾が頭の上を飛んでいても、美しく見られたかったのです」

マルチレベル・マーケティング(MLM)と呼ばれる販売手法が特徴の米国のメアリー・ケイは、戦時中のウクライナでも驚くほどの持続力を見せており、推定7万人の女性販売員が、空襲警報が鳴り響く中で販売を続けている。フォーブスの取材に応じた16人の販売員は、ウクライナ経済が戦争で疲弊する中、この化粧品は家族を養うための生命線になっていると話した。

メアリー・ケイがウクライナ市場に参入した90年代から販売を続けているエレナ・クリフチェンコワ(58)は「多くの人にとって、これが唯一の収入源なのです」と語る。「夫や息子を戦地に送り出した女性にとって、化粧品の販売は、恐ろしい現実から目を背けるための気晴らしにもなります」

しかし、販売員たちは、戦争に破壊されたウクライナ経済の厳しい現実にも直面している。GlobalDataによると、ウクライナのスキンケアと化粧品の売上高は昨年、13%減の1億8900万ドル(約280億円)に落ち込んだ。さらに、メアリー・ケイは、同社に特有のビジネスモデル上の課題を抱えている。

同社は、他のこの分野の企業と同様に、販売員が友人や知人に商品を販売するだけでなく、販売員になるように勧誘するビジネスモデルで事業を拡大してきた。メアリー・ケイが「コンサルタント」と呼ぶ販売員たちは、新たな売り手を勧誘し、その売り手がまた別の人を販売員にすることで、より多くの収入を得ることになる。米国の連邦取引委員会(FTC)は、マルチレベル・マーケティングの企業で働く人々は、ほとんど、あるいはまったく稼げないと警告している。

メアリー・ケイ自身も、そのような見方に苦しんでおり、フォーブスの試算によると、同社の2022年の全世界での売上高は、5年前の36億ドルから25億ドルに減少していた。

防空壕の中でサンプルを配った女性も

売上がトップの販売員にピンクのキャデラックを贈ることで有名なメアリー・ケイは、30年前にウクライナに進出した。同社は、ロシアでも18万人のコンサルタントを抱えており、アムウェイのような大手が撤退した後も同国での事業を続けている。

一方、ウクライナでのメアリー・ケイの事業は、主要な倉庫があるキーウが激しい空爆を受けたために、戦争が始まってから数カ月の間、停止した。しかし、販売員たちは自身と家族を養うために、手持ちの製品をできる限り販売した。また、売上の一部を義援金として寄付する人も居た。

タチアナ・コルニシュク(50)は、空襲警報が鳴り響くジトーミルの街で、防空壕に製品のサンプルを持ち込んで、女性たちに試してもらったという。「私たちはシェルターを美容サロンに変えたのです」と彼女は述べた。

マリーナ・チャイキフスカ(29)は、戦争の勃発後にストックしていた洗顔料やアイクリーム、フェイスマスクを販売し、月に約1000ドルの収入を得たという。彼女の夫は、以前はハルキウの製薬会社に勤めていたが、現在は最前線で負傷兵の治療にあたっている。
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編集=上田裕資

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