経済・社会

2024.02.29 10:00

「戦争第一」で環境を汚染するロシア、4倍速で温暖化する自国の将来も犠牲に

しばらくの間この制裁は功を奏した。けれども中国、インド、トルコが穴埋め役を担い、ロシア経済は復活を果たす。これらの国々にとってロシア産石油は安上がりであり、今後も取引を続けるだろう。何しろエネルギー転換には時間と資金がかかる。環境に配慮したエネルギーへの転換は、外国人投資家や多国籍企業を引きつけ、国家の利益となる。国民が求めているのも健康的な気候であって、汚い空気ではない。

「ロシアは炭化水素を売り続け、政治的関係を築きたいと考えている」とウェングルはいう。「安価なロシア産の石油とガスが入手できる状況にあらがうのは難しい」 

発展途上国の歓心は買えるが……

ロシアは市場で資源を活用できる。そして、西側諸国を圧倒できなくとも、発展途上国の歓心を買うことはできる。ただし、懸念材料があるとウェングルらの論文は主張する。ロシアが世界最大の面積を有する国であり、地球平均の4倍の速さで温暖化しており、温室効果ガスの主要排出国であることだ。

その結果、ロシアは熱波、干ばつ、森林火災に見舞われている。同国は石油や天然ガスの輸出国として知られると同時に、世界有数の小麦や穀物の生産国でもあるため、気候変動はロシア経済だけでなく世界経済にも影響を及ぼす。食料安全保障にも関わる問題だ。

ロシアは石油とガスから得られる収益を社会福祉政策の財源に充てており、国民もその恩恵を受けている。だが、化石燃料の収入はいつか枯渇すると、研究の主執筆者であるノートルダム大学のデブラ・ジャベリン准教授(政治学)は説く。脱炭素化と経済の多様化は、ロシア国民に利益をもたらすだろう。しかし、プーチン自身はほとんどメリットを感じていない。

ロシアの科学者たちは警鐘を鳴らしているが、残念ながら、彼らに祖国の動向を左右する力はほぼない。一方、ロシア国民は比較的冷淡で、世論調査によれば、国際的な気候政策がロシアの主権と権力を脅かすという指導者の見解に同意している。
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翻訳・編集=荻原藤緒

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