シベリアに出現した謎の「黒い穴」に関する新説、ガス噴出と関連か

ロシア・シベリアのヤマル半島で発見された巨大な穴を調べる調査団。2015年6月撮影(Getty Images)

2017年6月、ロシア・シベリア北西部のヤマル半島のトナカイ遊牧民から、大きな爆発音がして地面から煙が立ち上るのを見たとの通報があった。その日のうちに、散らばった土や氷の塊に囲まれた、直径7m深さ20m近くの穴が、爆発が起きたと思われる場所で発見された。

これまでに、同様の「黒い穴(ブラックホール)」が17個以上見つかっている。この穴は泥炭水で満たされている場合が多いことから、地元の人々にそう呼ばれている。この謎の穴の成因としては、サーモカルスト(凍土の陥没穴)や、秘密兵器の実験、隕石群の衝突などの説が提示されていた。



このほど発表された最新の研究では、この穴の正体は、北極圏の気温上昇によって非常に脆弱になった凍土の表層部から、古代の天然ガス溜まりのガスが噴出することで生じるクレーター(円形の凹地)だとする説を提唱している。

氷の融解は、地面に開いたこれらの穴の成因の1つの可能性があると長年見なされている。だがこれだけでは、ロシア北部に位置する西シベリア・ヤマル半島およびギダン半島で形成される穴しか見つからない理由を説明できない。今回の研究をまとめた論文の筆頭執筆者で、ノルウェー・オスロ大学環境地球科学部の教授を務めるヘルゲ・ヘレバンと研究チームは、影響を受ける地域の地史を盛り込むことで、この説をさらに発展させた。

ヤマル・ギダン両半島は、ロシアおよびシベリアの安定陸塊の上にある。これらの安定陸塊は、地球上にある最古の大陸地殻の一部の名残で、高温の天然ガスが断層を通って徐々に上昇してくる。こうして天然ガスが地下に蓄積されることで、凍土の表層が脆弱になり、さらに崩壊しやすくなるわけだ。

加えて、クレーターが形成された場所は数百年前まで、複数の小さな湖があった。湖底の軟らかい堆積層の中には、メタンなどのガスやガスハイドレートが長年の間に蓄積された可能性がある。湖が干上がった後、湖底堆積物の最浅層部が凍結し、ガス溜まりを加圧状態に保つ蓋ができた。だが、気候の温暖化が進むにつれ、この層が次第に破裂しやすくなる結果として、突発的なガスの噴出と爆発が起き、クレーターが形成される。



ガス噴出クレーターの形成過程を説明するモデル図(Hellevang et al. 2024/EarthArXiv Licensed under CC-BY Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International)

ガス噴出クレーターの形成過程を説明するモデル図(Hellevang et al. 2024/EarthArXiv Licensed under CC-BY Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International


シベリアの気候データは、過去10年間にわたる平均気温の上昇を示している。ガス噴出クレーターが形成され始めたのがこの12年ほどのことである理由を、これで説明できるかもしれない。

今回の論文「Formation of giant Siberian gas emission craters (GECs)」は、プレプリントとしてEartharxiv.orgで公開されており、ここで閲覧できる。

forbes.com 原文

翻訳=河原稔

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