欧州

2023.06.18

ロシアはウクライナで「エコサイド」を犯しているのか

ウクライナ南部ケルソン市のドニプロ川沿いで、カホウカ水力発電所のダム決壊による洪水で浸水被害を受けた地域で見つかった猫(Narciso Contreras/Anadolu Agency via Getty Images)

今月6日、ロシア占領下のウクライナ南部にあるカホウカ水力発電所の巨大ダムが決壊し、下流の村々が広範な洪水に見舞われた。大勢の住民が避難する中、地域の人々や動植物への被害が次第に明らかになってきている。

ウクライナのルスラン・ストリレツ環境保護・天然資源相は、「エコサイド」(大規模な環境・生態系の破壊)と「人道的惨事」につながるとの危惧を表明。国立公園の広域が壊滅的な被害を受け、大量の油がドニプロ川に流出したと強調した。同省のオレクサンドル・クラスノルツキー副大臣は、次のように結論づけた。「地域に広範な被害が出ており、ウクライナでは(ロシアによる)本格的な侵攻が始まって以来最大のエコサイドだ。この一件で、わが国の生態系は甚大な環境被害を受け、生物多様性と自然保護区が損なわれると認識している」

ダム決壊はロシアが仕組んだものだと非難されているが、同国は関与を否定している。国際法律事務所Global Rights Compliance(グローバル・ライツ・コンプライアンス)は「地震センサーなどから得られる情報証拠と分析や、著名な解体専門家らとの議論から、ダム構造内の重要なポイントにあらかじめ設置された爆発物によって引き起こされた攻撃の可能性が非常に高い」と指摘。施設の管理ミスを原因と指摘する説もあるが、同事務所は「的確に配置された爆発物の支援なしに、管理ミスだけでこれほどの壊滅的な破壊を説明できるとは考えにくい」と強く指摘する。

ウクライナの検事総長室、地方検事、国際刑事裁判所(ICC)、グローバル・ライツ・コンプライアンスの代表団は、ダム決壊の被害を受けたヘルソン州とミコライウ州の各地を視察した。アンドリー・コスティン検事総長は、戦争犯罪とエコサイドの罪という2つの特定犯罪に焦点を当てて捜査を行っていることを認めた。

エコサイドは「エコロジー(環境)」と「ジェノサイド(集団殺害)」の合成語で、ウクライナ刑法441条では「動植物の大量破壊、空気・水資源の汚染、環境災害を引き起こす恐れのあるその他の行為」と定められ、8年以上15年以下の禁錮刑に相当する。ウクライナ検察当局は、写真や動画の記録をはじめとする証拠を各種作戦部隊から収集し、目撃者の証言を集めるとともに、ダム決壊がもたらした被害状況を記録している。

グローバル・ライツ・コンプライアンスの代表団は、「入手できた情報および主要なオープンソース・インテリジェンス提供者との検証結果によれば、6月6日にカホウカ・ダムが受けた被害は、意図的に民間人を飢えさせ、主に敵対勢力下に暮らす人々を罰するための広範かつ継続的なパターンの一部を形成している」と指摘。「ウクライナの貯水・給水関連施設への攻撃の規模には、特に注意が必要だ。こうした攻撃は、民間人から生存に必要な手段を奪うものと認定され得る。したがって、ロシアは飢饉を戦争遂行の手段として利用していると言える」と述べている。

ダム決壊の被害は、住民や動植物など地域全体に深刻な影響を及ぼし続けるだろう。一方、ウクライナ侵攻をめぐるロシアの戦争犯罪について調査するConflict Observatory(紛争監視団)の報告で、カホウカ・ダムの決壊による洪水で、ウクライナの文化遺産施設が複数被害を被ったことも示唆されている。今後さらなる詳細が明らかになるにつれ、真の被害規模が具体的に判明するだろう。

forbes.com 原文

編集=荻原藤緒

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