ロシアとウクライナの戦いでは「水」も武器? タブーは破られたのか

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ロシア軍はウクライナへの侵攻を開始したすぐ後、同国南部のコンクリートダムを破壊した。このダムは、ロシアが2014年にクリミア半島を一方的に併合した後、ドニエプル川の水をクリミアではなくウクライナ南部のへルソン州に向かって流れるようにするため、ウクライナが建設していたものだ。

このダムへの攻撃が、ウクライナに対するロシアの報復だったのかどうかは分からない。だが、これによって浮き彫りにされたのは、敵方の水へのアクセスを妨げることが、どれほど悪質な戦術かということだ。食料生産を可能にするものでもある水を入手困難にすることは、民間人に壊滅的な影響を与えることでもある。

水関連の問題を専門とする米シンクタンク、パシフィック・インスティテュートによると、世界では今年に入り、各地で給水設備を狙った軍事行動が相次いでいる。ウクライナのダムのほか、イエメンでは水タンク、ソマリア、マリではその他の水インフラが攻撃を受けた。

パレスチナではイスラエル軍によって貯水槽を含む農業施設が、長年にわたって干ばつに悩まされてきたシリアではロシア軍によって配水施設が、破壊されている。

米ニューヘブン大学のマシュー・シュミット准教授(国家安全保障・政治学)は戦争と水について、次のように述べている。

「戦争は基本的に組織的な暴力であり、人々を強制するために、軍事的な脅威を用いることだ」

「私たちは生きるために、水を飲まなくてはならない。そのため水は、常に兵器として使われてきた」

第2次世界大戦後には人権協定についての交渉が行われ、水が兵器として使われることは減っていた。だが、気候変動によって干ばつが増え、水が少なくなったことにより、その状況が変わり始めた可能性があるという。

「そのようなことはすべきでない、という道徳感覚があった」と話すシュミット准教授は、ロシアがウクライナでその「タブーを破ったのかどうか」に注目している。

「水」が招く危機


ウクライナは欧州の“パンかご”として知られる穀倉地帯だ。小麦やひまわり油など、主要な一次産品の生産量がこの戦争によって減少するなか、世界的な大惨事が迫りつつあると指摘されている。
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編集=木内涼子

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