サービス

2024.01.26

バーチャル本社アプリ「Roam」は、オフィス用「忍びの地図」

Getty Images

ハワード・ラーマンが次のスタートアップの構想を得たのは、Zoomの会議に誰かを参加させるのを忘れたときだった。ちょうど新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)の真っただ中で、連続起業家のラーマンはYext(イエクスト)を経営していた。オンラインマーケティングのプラットフォームである同社は、ラーマンが2006年に共同創業した上場会社だ。当時は大規模なビデオ会議が一般的で、カメラをオンにしたりオフにしたりしている同僚のマス目がスクリーンに散らばっていた。リモートワークでは「Zoomカレンダーの招待のところに誰かを追加し忘れると、その人は存在しないのと同じ」と、Confide(コンファイド)の共同創業者でもあるラーマンは言う。「招待から漏れた人は会議が行われることを知る術がない」。

その瞬間、ハリー・ポッターの魔法魔術学校の内部と学校内にいる人たちの位置を示す魔法の地図のコンセプトをもとに、オフィスのための「忍びの地図」のアイデアがひらめいたとラーマンは言う。その結果、「クラウド本社」アプリの「Roam」が誕生した。同アプリではオフィスがシンプルな2Dで表示され、誰がネットにつながっているのか、誰が誰と会っているか、自発的な短時間の音声通話やビデオ通話が可能かどうかを把握できる。「一日中(Zoomで)ミーティングをしなくても、全社員が1カ所の本社に集まっていられる方法が欲しかった」とラーマンは語っている。

Roamが、シリーズAラウンドで調達した3000万ドル(約44億円)と、ラーマンが拠出した約1000万ドル(約15億円)のシード資金で、ステルスモードから抜け出してから1年余り。この「バーチャルオフィス」アプリは、1月18日に招待制のベータ期間を終え、誰でも利用できるようになった。料金は1ユーザーあたり年間およそ10ドル(約1500円)で、従業員1000人未満のリモートワーク主体の企業や、ハイブリッドワークを取り入れている企業をターゲットとしている。Roamは、Slackスタイルのメッセージ機能、Zoomのような音声・ビデオ会議機能、人工知能(AI)を活用した会議の要約機能を、シンプルな黒色のインターフェースに融合させている。このインターフェイスでは、従業員やチーム、会議室のバーチャルマップが表現されている。

ラーマンによると、ベータ期間中に需要が急速に高まり、順番待ちに5300件の申し込みがあったという。そのうちの300社が、現在のRoamの有料顧客になった。同社は売上について詳細は明らかにしなかったが、ラーマンによると、ユーザーがRoamのバーチャルオフィスを「ノック」して自然発生的な会話を行うようになることで、会議にかかる平均時間は通常8分程度に短縮されるという。

しかし、今回のRoamの一般公開は、従業員に出社を求める企業が増えている矢先のことであり、実際に個室に立ち寄ったり会議室で会議することが再び好まれるようになれば、デジタルコラボレーションツールの必要性は低下する可能性がある。また、企業文化によっては、デジタルアプリを「常時オンにする」ようプレッシャーが強まったり、Roamの「マップ」上で同僚たちが自分のいないところで会話しているのを見た場合に取り残されることへの不安を感じたりする可能性があるため、すべての労働者が新たなツールを歓迎するわけではない。
次ページ > バーチャルオフィスはRoamだけではない

翻訳=溝口慈子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事