岡田:ありがとうございます。長期的な視点はこの会社に根付いているものだと思います。
松田:アトツギの方と喋ってると、考えるときの時間軸が長い。100年企業の考え方とスタートアップの考え方との軸の違いを感じます。
岩田:スタートアップといえば、長谷虎紡績は結構スタートアップ投資に取り組まれていますよね。
人的資本経営とは「人のご縁を大切にする」こと
長谷:私たち、会社が三星毛糸さんと同級生なんです。明治20年に誕生して、同じ繊維の会社で今年136年。現在5代目っていうのも同じです。繊維産業は事業環境としてはめちゃめちゃ厳しい。日本にある紡績の設備数って、1960年代がピークで、かつては1200万錘(すい)あったんです。で、現時点では17万錘。98パーセント以上が日本から淘汰されて、価格競争のために生産拠点は海外へ行きました。
岩田さんの言う共創とは全く違う。競い、争い合う結果ってやっぱりこうなるんですよ。実は日本のあらゆる産業がこの危機に晒されています。
私たちの会社の歴史を見ると、別に自分たちの1社で生き残ってきたわけじゃなくて、時代の変化の中でスタートアップを含む様々な企業と連携することによってお互いが生き残ってきたんです。そんななか、特殊繊維開発を行うスタートアップなどに投資をしています。
岩田:会社として、人的資本経営との向き合い方はどうですか。
長谷:ひとつの事例として、ちょうど60年前、1963年に皆さんご存じのダスキンと我が社は出会いました。
ダスキンを創業した鈴木清一さんが最初どういう事業プランを立ち上げたかというと、雑巾をレンタルする事業。そのためには、ある程度強い糸を作らないといけない。ダスキンは様々な繊維会社に事業を提案しますが「雑巾をレンタルするなんて」と相手にされない。 断られ続けたダスキンは大阪の本社から、新幹線の無い時代に岐阜の我が社に「ぜひ雑巾をレンタルする事業のため糸を開発してほしい」と話をしにきました。
実は、祖父の部下は鈴木さんの話を聞いて「お帰りください」と断ったんです。
しかし鈴木さんは大阪に帰る前にうちの記念碑に手を合わせた。その手を合わせてるところにたまたま祖父が通りかかって声をかけたら、「人のためになる、世の中のためになるものづくりをしたいから、来た。断られてしまったけれど、今日ここに来れたことに対する感謝の思いで手を合わせていました」 と言われたそうです。
この人は面白そうだと思った祖父は、もう1回部下を呼んで「君がこの話を断ったのは、確かに経営判断としては正しい。 でも、鈴木さんの情熱、人のためという思いを知り、ぜひ一緒にやりたいと思った。手伝ってくれ」と伝えたそうです。
まさしく人的資本経営ってこういうことなのかな、と。人のご縁を大切にすること、人の思いを受け取ることなのかなって、おぼろげながら思うんです。
私自身社長として四半期の数字に追われてしまいがちですが、目先の利益よりも人とのご縁を大切にするべき場面って絶対あるんです。