多くの人の尽力によりマラリア対策は急速な発展を遂げてきたが、ここに来て再び、マラリアとの闘いが「危機的状況」に陥りつつあると、国際機関「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」のピーター・サンズ事務局長は語る。今回、サンズ氏がマラリア対策の現状について緊急寄稿した。
世界は今、マラリアとの闘いにおいて重大な局面を迎えています。長年にわたり、マラリア対策は急速な進展を見せましたが、2015年頃から停滞しました。それ以来、マラリア流行地域は、薬剤や殺虫剤への耐性、紛争、新型コロナウイルス感染症、気候変動など、いくつもの課題に直面してきました。
幸いなことに、各国のマラリア対策プログラムやパートナーによる断固たる行動により、世界レベルでは、マラリアの再流行を抑えることができています。
世界保健機関(WHO)が今年発表した「世界マラリア報告書」は、今までの対策の強靭性を問うものです。報告書によれば、00年~22年にかけて、世界では感染者数を21億人、死亡者数を1170万人回避することができました。それが、終息に向けた進展は停滞し、一部の地域では後退しつつあります。
この疾病との闘いに負ける危険性がかつてないほどに高まっています。確かに、マラリアとの闘いで私たちが直面する多様な課題は、相互に作用し結びつくため、その影響を正確に解明する方法はありません。
それでも、気温や湿度の上昇、異常気象の頻度と強さの増加により、マラリアを媒介する蚊の生息域が拡大し、世界での感染者数が急増しており、気候変動の影響はますます警戒を必要としています。マラリアの影響を最も受けやすいコミュニティは、気候変動の影響を最も受けやすいコミュニティでもあります。
マラリアによる負担の95%を抱えるアフリカは、気候変動への関与はもっとも少ないにも関わらず、その影響を大きく受けています。以前は低温で蚊が生息できなかったエチオピアやケニアのような高地にも、マラリアが発生しています。洪水などの異常気象により感染が急増し、エルニーニョ現象による雨に見舞われているケニアやソマリア、あるいは今年、サイクロン「フレディ」の襲来を受けたモザンビークやマラウイのような国では医療サービスが逼迫し、コミュニティが強制的な移動を迫られています。このような異常気象は農村部の貧困層の農場を破壊し、子どもの栄養失調を増加させ、マラリアの影響を悪化させています。栄養失調の子どもはマラリアにより死亡する可能性が高くなります。