過去20年間で、私たちは、マラリアとの闘いにおいて大きな進展を遂げました。しかし現在、危機的状況にあります。有効成分を二種類配合した蚊帳や、季節性マラリアの化学的予防やワクチンなどの革新的で強力なツールがありますが、これらを迅速かつ大規模に展開するには、政治的意思と資金が必要です。気候変動と殺虫剤やマラリア治療薬に対する耐性の増加により、この課題ははかりしれないほど困難なものになるでしょう。
対策の遅れは人命と資金の損失につながります。すでに、世界の最貧地域に住む妊婦や幼児を中心に毎週1万1000人以上がマラリアで亡くなっています。行動を起こさずにこの数が増えるのを見過ごせば、悲劇は悪化するばかりです。多くの国々で成し遂げてきたように、マラリアは予防と治療可能な疾病です。気候変動の脅威が高まっている今こそ、人類最古の敵の一つであるこの恐ろしい疾病を世界から終息させるために、私たちはよりいっそう取り組みを強化するべきではないでしょうか。
ピーター・サンズ◎世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)事務局長。英国外務省、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2002年にスタンダード・チャータード銀行グループの最高財務責任者(CFO)に転身。06年から15年まで同行の最高経営責任者(CEO)を務めた。退任後、ハーバード・グローバルヘルス研究所およびハーバード大学ケネディ・スクールのモサヴァー・ラーマニ・センター・フォー・ビジネス・アンド・ガバメントのリサーチフェローとして、グローバルヘルスと金融規制に関する研究プロジェクトに従事。18年より現職。米国科学アカデミーの「微生物の脅威に関するフォーラム」および「安価な医薬品へのアクセス確保に関する委員会」のメンバーも兼務する。