事実と異なる「偽の記憶」を集団で共有する「マンデラ効果」はなぜ起きる?

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ネルソン・マンデラは、名高い自由の闘士で、反アパルトヘイト活動家であり、27年間を獄中で過ごした、復活と苦境の伝説的人物だ。しかし、心に響く彼の物語は、人々の集合的記憶の中でしばしば歪められ、多くの人がマンデラは1980年代に獄中死を遂げたと思い込んでいる。だが現実はそうではない。マンデラは釈放後も、長く充実した人生を送った。1994年から1999年まで南アフリカ共和国の大統領を務め、2013年に95歳で死去した。

このような事実にもかかわらず、多くの人々がマンデラは獄中で死んだという記憶を強く信じているのだ。この唖然とするような現象、すなわち真実ではない事柄や出来事を、大規模に集団で信じ込んで記憶してしまうことを「マンデラ効果」と呼ぶ。興味深いことに、この現象はさまざまな状況で広く観察されている。

しかし、なぜ私たちの心は、実際には決して起こっていない事象の記憶を持っていると、自らを信じ込ませてしまうことができるのだろうか? また、なぜ大勢の人からなる集団が、まったく同じ偽の記憶を共有することがあるのだろうか? マンデラ効果について、心理学者にわかっていることを以下にご紹介しよう。

人間の脳はどうやって過誤記憶を作り出すのか

マンデラ効果は、過誤記憶(虚偽記憶とも)の一例として捉えられることが多い。つまり、意識の中では本当だと思える記憶が、実際には部分的あるいはすべて捏造された記憶であるということだ。人間の意識がそのような嘘をつけるとは信じがたいと思うかもしれないが、過誤記憶は頻繁に起きる。

たとえばこんな場面を想像してほしい。確かにガスコンロの火を消した。間違いなく重要なメールの「送信」ボタンを押した。あの牛乳パックを買い物カートに入れたことは疑いようもない。しかし、実際にはそうしていなかったことに気づく。

『Consciousness and Cognition』誌に掲載された研究では、そのような過誤記憶がどうして起こり得るのかを、自己記憶システム(Self-Memory System)という言葉を通じて説明している。これは人間の自己意識と記憶の間のつながりに注目した概念的枠組みだ。この相互のつながりは、人間のエピソード記憶や、自伝的記憶、そして自己概念の中で情報処理を導く作動自己概念を網羅している。
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翻訳=高橋信夫

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