以後5カ月にわたる激しい戦闘で、ウクライナ軍部隊はザポリージャ州で重要な集落をいくつか解放し、ロシア軍が要塞化した主要防衛線の最も外側のラインも突破した。ただ、主な3つの攻勢軸で前進できた距離は15〜20kmほどにとどまっている。
とはいえ、ウクライナ軍はこれらの戦果を歴史の先例に反するかたちで収めている。通例では、攻撃側の軍隊の人員や装備の損耗は防御側の3倍にのぼるとされる。だが、ザポリージャ戦線で攻める側であるウクライナ軍の損耗は、守る側のロシア軍と同程度にとどまっている。
対照的なのが、東部ドネツク州でのロシア軍の戦いぶりだ。ロシア軍第2諸兵科連合軍隷下の数個旅団は10月10日、ウクライナ軍の防御拠点であるアウジーイウカに向けて攻撃を開始した。アウジーイウカはウクライナ軍の第110独立機械化旅団などが守備しており、その後、西側の高性能兵器を擁する第47旅団が増援に投入された。
アウジーイウカ戦役の最初の4週間で、攻撃側のロシア軍は防御側のウクライナ軍の14倍もの車両を失った。これも歴史の先例に反している。ザポリージャ戦役でのウクライナ軍と反対に、こちらではロシア軍が攻撃側としても異例なほど損害を膨らませているのだ。
ロシアがウクライナで拡大して22カ月目になる戦争で、両軍の装備の損失(撃破・損傷・遺棄・鹵獲)をソーシャルメディアに投稿された写真や映像から集計しているオープンソース・インテリジェンス(OSINT)アナリストらによると、ザポリージャ州での車両損失数は11月10日時点でウクライナ軍が518両、ロシア軍が600両となっている。他方、アウジーイウカ方面では同日時点で、ウクライナ軍の損失がわずか16両なのに対して、ロシア軍の損失は221両に達している。
損失の内訳にも違いがある。ザポリージャ州ではウクライナ軍の場合、歩兵による急襲に用いている装甲トラックを多く失った。ロシア軍のほうは、戦車や補給用トラックの損失が比較的多い。戦車はウクライナ軍のドローン(無人機)や大砲の犠牲になり、トラックは次第に防御が弱まっている補給線を移動中に破壊されている。