子どもの頃は宇宙の外側に何があるのか知りたくて仕方なかったという新谷氏に、宇宙に関する法律が各国ベースで存在する理由、宇宙における国際法の現在、近い将来、宇宙に絡んでどんな訴訟が起きうるのか、そして宇宙ビジネスにおける日本の勝ち筋などについて話を聞いた。
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ルール不存在の領域、まだまだ多い
──日本でも2018年に「宇宙活動法」が定められましたが、宇宙関連の法律は各国で制定されています。「国境がない」宇宙をめぐる物事に、国それぞれで「国内法」をつくるのはなぜでしょうか。新谷美保子(以下、新谷):おっしゃる通り、不思議ですよね。
簡単に言えば答えは、「ロケットは地上から打ち上げるから」です。つまり、「打ち上げる土地」が含まれる国ごとに、打上げに関する許認可、つまり何を守ればロケットを打ち上げていいのかの基準を定めた法律を国内法として作る必要があるんですよね。射場周辺の住民の安全を守るために、「その国内法に準拠しているよ」ということを明らかにする必要があります。日本であれば、内閣府に対して申請をし、許可をもらって初めて打上げが可能になるわけです。
でももちろん大前提として、宇宙に関わる根本的なルールメイキングには、国際的に取り組んでいく必要があります。国連の委員会(国連宇宙空間平和利用委員会)でも宇宙に関する条約及び協定を監督してはいるものの、宇宙条約、宇宙救助返還協定、宇宙損害責任条約、宇宙物体登録条約、そして月協定の5つしかありません。その中でも多くの加盟国が批准することで機能している条約は、月協定以外の4つしかないのが現状です。では、今後新たにこのような条約が生まれるかというと、それは正直望めなさそうです。
世界の宇宙開発の状況は、冷戦下の米ソによる開発競争を経て、中国などの新プレイヤーも台頭して複雑になってきています。そのこともあって、加盟国数の多い国連の委員会では、条約などの法的拘束力をもつハードローを策定するには、コンセンサス(全会一致)を得ることが難しいんですよね。
そこで、国連の委員会でも、例えば最近では「宇宙活動に関する長期持続可能性ガイドライン」を採択するなど、宇宙開発におけるメッセージをガイドライン等の形で出しています。そのほかにも、各国の宇宙機関や民間団体等も各々でガイドラインやポリシーを制定しています。
でも、問題なのは、こうしたいわゆる「ソフトロー」にはそれ自体に強制力がないこと。実際に「一部の国は遵守せず」という事態も起きているんです。実質的な宇宙の「無法」環境は、なかなか容易には整備できないのです。