女児のADHDは発見されにくい。なぜ静かに苦しみ、思春期以降に悪化するか?

Shutterstock

一般的に、小学生の男児が注意欠陥・多動性障害(ADHD)に苦しんでいるだろうと予測することは容易である。しかし、女児は、成人女性も含めてADHDと診断されることが少ないため、病名を知ることなくその症状に苦しんでいるのだ。なぜこうしたことが起きるのか、説明したい。

注意欠陥・多動性障害(ADHD)は基本的に男児に起こりうる、との誤解がある。しかし実際は、女児の診断される頻度が数倍低いだけである。ある報告によると、ADHDの女性の50~75%が、自分の診断を知らずに生活しているという。これはADHDの女性たちの生活、仕事、自尊心に影響し、深刻な健康問題や法的問題にまで発展する可能性がある。

落ち着きのない男の子、だけじゃない

ADHDは神経系の発達障害であり、平均して10%の子供にみられる。注意力の維持、教育や仕事への集中力、衝動性、過剰な運動などに関連した症状が複合的にあらわれる。そして、今後何十年もの間、たとえベストを尽くしたとしても、締め切りを忘れたり、指示を混乱させたり、空港に到着する日を間違えたりすることがあるのだ。

「ADHD」という言葉から連想されるのは、教室で飛び跳ねる小学生である。しかし、この症状は男子に限ったことではない。臨床心理学者でネイキッド・ハート基金の専門家であるタチアナ・モロゾワは、「女性や少女にも、男性や少年と同じADHDの症状が見られます。しかし、女性の場合、不注意、過剰な社交性、忘れっぽさ、過剰なおしゃべり、時間管理の困難さなどが多くみうけられ、男性の場合、多動性や衝動性がより多くみうけられるのです」と語る。

タチアナ・モロゾアと共に働く小児神経科医のスヴャトスラフ・ドヴブニャは、小児期にはADHDの女児と男児の比率は1:3だが、年齢が上がるにつれてこの差は小さくなるという。これにはいくつかの理由があるが、主な理由としては、医師や教師、親が、衝動性や多動性といった、通常男児に見られるADHDの症状に注意を向けやすいという事実があげられる。注意欠陥に関連する症状は、通常、ぼんやりしたり怠けたりすることにあらわれる。結局のところ、衝動性や多動性を特徴とする人の場合、それを無視することは難しい。他人から見て目立つからだ。

もうひとつの理由は、ADHDの女児や女性は不安障害やうつ病を発症しやすく、注意欠陥に伴うADHDの症状をさらに覆い隠してしまうため、診断やケアが行き届かないということだろう。
SIphotography / Getty Images

SIphotography / Getty Images

また、女児がADHDと診断されるのは、男児より平均5年遅い。エストロゲンが分泌される思春期以降に症状が顕著になるからだ。男児の場合、思春期を迎えるとADHDの症状は通常減少するが、女児の場合は違う。女性のADHDの重症度は、ホルモン周期によって決まることが多い。月経前のホルモンの変動は、症状の悪化につながるのだ。さらに、エストロゲンとプロゲステロンのレベルが上昇すると、ADHD治療薬の効果が減少する可能性がある。

このように、明らかな性差があるにもかかわらず、研究は主に男性のADHDに焦点を当てている。女性のADHDを研究する科学的研究の量は徐々に増えてきているが、男性や男児に関する同様の研究よりもまだ少ない。さらに、ADHDの外面は社会的偏見に影響される。一般的に女性は、衝動的な浪費、気分の落ち込み、せっかちな性格があると信じられている。その結果、医療的ケアが必要な人が診断やサポートを受けられる機会が限られるのだ。
次ページ > 女性と女児は沈黙の中で苦しんでいる

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事