NYで「他の弁護士にない武器」を手に入れ宇宙へ。スペースロイヤーという彼女の決意

TMI総合法律事務所 パートナー弁護士 新谷美保子(写真=藤井さおり)

宇宙ビジネスの勢力地図と「日本の勝ち筋」。宇宙法務弁護士に聞いた の新谷美保子弁護士は、なぜ弁護士として宇宙ビジネス法務を選ぶに至ったのか。以下、TMI総合法律事務所のHPから、一部編集の上、転載でご紹介する。


TMI総合法律事務所 新谷美保子弁護士。民間参入が進む日本の宇宙開発において、スペースポート計画を進める団体の設立理事も務める、最先端の宇宙ビジネス法務分野における第一人者だ。

ここでは、弁護士として宇宙ビジネス法務を選ぶに至るまでの道程にフォーカスしていきたい。一体なぜ宇宙だったのか? 日本では前例のない仕事をいかに軌道に乗せたのか? この先にどんなビジョンを描いているのか?

ニューヨークでの企業研修中に抱いた夢

2015年の春、ニューヨークでの海外留学と企業研修を終えて帰国した新谷は、田中代表の執務室を訪ねていた。

「新谷先生、向こうはどうでしたか?」

「はい、出会いにも恵まれまして、とても貴重な経験となりました。例えば……」

報告をにこやかな表情で聞いていた田中代表が、「で……」と切り出す。弁護士としての今後のキャリアをどう描いていくのか。それが、この場のメインテーマである。新谷には、ニューヨークでの企業研修中に抱いた夢があった。日本ではまだ誰も手をつけていない、宇宙ビジネス法務という道を拓いていきたい──。

TMIに入所して以来、先輩弁護士たちが新たな領域の開拓者となるさまを間近で見てきた。自分もそれに続いていきたいと思いながら、ニューヨークでも少しずつ情報を集めていた。だが、いざ日本へと戻ってくると、描いた理想と目の前の現実との間に横たわるギャップが、どんどん大きくなっていく。

日本には宇宙ビジネスを柱に活動している弁護士などひとりもおらず、甘いものではないことは誰の目にも明らかではないのか? そもそも、2人の小さな子どもを抱える自分が、本当に誰も開拓したことのない分野に挑めるのだろうか? だが、ここで諦めてしまったら、ずっと後悔するのではないか?

振り子のようにゆらゆらと揺れる心の迷いが、幼いころの記憶とつながった。

『宇宙のひみつ』と『日本国憲法』

小学校に上がるか上がらないかという頃のことだった。家族と横浜観光をした際、氷川丸の中で不思議な感覚に包まれた。私たち人間はいまここに在るのでなく、広大な宇宙の中のとてつもなく小さな存在にすぎない……。そんな体験を境に、地球の外に関心が向くようになった。

「ねえ、宇宙には一体何があるの?」Jasonfang / Getty Images

Jasonfang / Getty Images

熱心に尋ねるたびに、共に理系の研究者だった両親は、娘の将来を案じていたようだ。この子なら、宇宙飛行士になりたいと言い出しかねない。一人娘に危険なことはさせたくない。駅前の書店で『学研まんが 宇宙のひみつ』(学研プラス刊)という本を買ってほしいと何度もねだったときも、ついぞ買ってもらえなかった。

母親は、娘の関心を宇宙から逸らそうとしたのかどうか、弁護士や警察官が主役のテレビドラマを一緒に視聴するようになった。

「正義の味方ってカッコイイね。世の中でおかしいと思ったことを、変えていく発言力がある仕事だね」

ドラマの世界とは全く違った視点からも、彼女は法律の世界に興味を持ち始めていた。小学校の社会科資料集を開いて、日本国憲法の人権の項を読んだときに衝撃を受けたのだ。自分が興味を持っていた理系の世界では、例えば電球や医薬品は、人間に必要だから研究の末に生み出された。それらと同じように、世の中の秩序を保つために必要だから、「人権」という概念が生み出され、そのルールのおかげで安心して暮らせている。このことに気付いた新谷は、こう思った。

「法律って、人類史上もっとも素晴らしい発明だ。だから人間は他の動物とは違って複雑な社会をつくれたんだ。よし、将来は法律に携わる人になろう!」
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文=神谷竜太 再編集=石井節子

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