司法修習を経て、弁護士の道へ
大学卒業後、合格率が3%弱という狭き門だった旧司法試験にチャレンジし、合格当初は弁護士ではなく検察官になろうと考えていた。構成要件を検討してどんな罪にあたるのかをロジカルに探っていき答えを導き出す刑事系科目に、理系に似た気持ちよさを感じていたからだ。だが、ほかの事務所とはかなり違う、生き生きした雰囲気が肌に合うと感じてTMIへの入所を決め、弁護士の道を進み始める。そして、駆け出しのジュニアアソシエイト時代には、貴重な二つの経験を積んだ。
ひとつは、さまざまな弁護士と多くの訴訟を担当したことである。大企業の訴訟を常時3件以上は抱えているような状況だった。証拠探しのデータがPCで共有される昨今とは違い、当時は書類を詰めこんだ段ボールがまとめて送られてくる。その山をひたすら掻き分けて証拠を集め、事実を固めながら書面のファーストドラフトをつくる。それが真っ赤になるほど先輩たちに直されながら、裁判所に提出できるレベルの書面へと仕上げていった。
もうひとつは、TMIには海外のクライアントがとても多いため、入所間もない頃から先輩たちが英語でクライアントとやりとりをしている様子を間近で見られ、英語でのコミュニケーションを任される経験も積めたことだ。弁護士として必須の素養を身に付けるのに、素晴らしい環境だった。
(写真=藤井さおり)
新人時代、逆転勝訴にガッツポーズ
そんな新谷にとって、忘れられない知財裁判がある。一審で負けた知財訴訟に、控訴審から関わる機会を得た。一審判決を覆すためには、新たな証拠と主張が必要になる。まだ入所2〜3年目の新人だったが、任せてもらった。
「新谷さん、この案件、自分の思ったようにやっていいよ」
それならば……と、訴訟対象の製品やその設計を見直したのはもちろん、関連製品が集結する展示会にも足を運んだ。そうしてコツコツと証拠を集め、チームの弁護士・弁理士と議論を繰り返しては、新たな主張を組み立てていく。
「この訴訟に勝つことは、クライアントの産業界における社会的意義にもつながる」
そう感じながら、訴訟準備にも自然と熱が入った。書面のやり取りにおいては、これまでの流れを変えられたのではないかという手応えがあった。
迎えた判決言渡しの日、高裁の判決が下された瞬間、彼女は同席していた女性弁理士と顔を見合わせ、思わずガッツポーズをした。完全なる逆転勝訴だった。
事務所で待っていたパートナー弁護士に電話すると「えー、うそでしょ?」という驚きの第一声が返ってきた。その日は、所内で同僚たちに会うたびに「勝ったんだって? 良かったねー!」と、どれだけたくさんの祝福を受けたか分からない。ちょうどその日は、知財高裁の有名裁判官3名の最後の合議体の日だった。最後の法廷となった担当裁判官のひとりが後日、退官のあいさつも兼ねて、TMIの先輩弁護士にこう語ったらしい。
「あの件では、TMIの若いお嬢さんたちが本当によく頑張っていたよ」