「他の人にはない武器」を
いま新谷が女性の後輩たちに伝えたいのは、出産や育児のために、自分のやりたいことを諦める必要はないということだ。もちろん子どもを育てる中で、どうしたって母親でなければできないことは沢山あり、仕事に没頭できる時間が減るのは避けられない。それでも、その限られた時間を100パーセントの力でやりきればいい。時間がとれない状況を乗り越えていく術は、隙間時間に勉強をし続け、「他の人にはない武器」を身に付けることしかない。「専門性」や「仕事の質」、そして「こんな世界にしたい」という情熱で勝負することは絶対にできる。かくいう新谷自身、ニューヨークから帰国した時点では、宇宙ビジネス法務の道への覚悟を持ちきれていなかった。帰国前に第二子を出産したばかりであったため、第一子の子育てに追われたニューヨークの日々が頭をよぎったのである。
心の迷いが消え去ったのは、TMI 田中代表の部屋に呼ばれたときだった。今後のキャリアについて話をするために設けられた場で、新谷はこう尋ねた。
「先生にとって、弁護士の成功ってなんですか?」
「他の人がやっていない新しいことに挑戦すること。その分野で3本指に入って自分の名前で仕事の依頼がくることかな」
新谷は、意を決して、こう言った。
「では私、宇宙をやってみてもいいですか?」
「小さい子を2人抱えて、並大抵のことじゃないよ。軌道に乗るまで何年かかるかわからない」
代表は少しの間を置いて、こう続けた。
「……だけど、やってみたらいい」
真正面からの、厳しくも温かい言葉だった。
こうして、彼女のスペースロイヤー人生は幕を開けた。
>関連記事:宇宙ビジネスの勢力地図と「日本の勝ち筋」。宇宙法務弁護士に聞いた
新谷 美保子(しんたに・みほこ)◎慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、2006年弁護士登録(TMI総合法律事務所所属)。専門分野は、宇宙航空ビジネスに関する法務全般、宇宙法・航空法、新規事業立上げ、リスク管理、知的財産権など。2013年米国コロンビア大学ロースクール卒業後は、宇宙航空産業に複数のクライアントを持ち、民間企業間の大型紛争、宇宙ベンチャー投資、宇宙ビジネスに特有な契約交渉など、数多くの宇宙ビジネス法務を扱う。2018年には「一般社団法人Space Port Japan(SPJ)」設立メンバーとして理事に就任した。
神谷竜太(かみや・りゅうた/文)◎インタビューライター、エディター、クリエイティブディレクター。ヒューマンストーリー・プロジェクトストーリーの執筆・編集を主体として活動する他、企業理念およびビジョン策定、企業合併および分社におけるコンサルティング案件、広報案件、周年誌制作などに参加。2022年より、WEBメディア「visions」の取材執筆を手がける。https://www.facebook.com/ryuta.kamiya