新谷:宇宙ビジネスという、これから益々民間企業の力によって新しい取り組みが行われていく領域で、産業振興の方向性に関与できるような意見を言えることがなにより楽しいですね。宇宙政策を検討する場では、活発な議論がなされ、政府や宇宙機関の方々も私のような民間人の話をしっかり聞いてくれます。
一方で、「日本にはこれが足りない」「こういうことをやったほうがいい」と政策提言をする政府委員の仕事は、当然、ビジネスロイヤーとしてはお金にはなりません。ではなぜ引き受けるのか。それは、そこに時間を使うことに、あまりにも意義があるからです。自分が民間企業の皆様と共に日々世界と闘う中で得た気付きを提言することで、3年後、5年後の日本が変わっていって、そこに産業が生まれるかもしれない。
たとえば私1人の人生は、あと何十年と有限なものです。しかし、日本という国やそこに生まれてくる子どもたちは、この先も何世代と続くわけです。
そんな中で、宇宙ビジネスの現場、その渦中にいると、「今、もしこれをやらなかったら未来がこうなってしまう」という枝分かれのポイントに実に多く出会えるのです。宇宙産業もこれから発展していく新分野ですから、とにかく、「今このことを推進しないといけない」という場面に立ち会える機会がとても多いです。
そして皆で議論をした結果、もしかしたら100年後にもっといい未来を残せるかもしれません。自分はもういないかもしれない未来を考えながら、意見を言ったり、「こういう立法にしたほうがいい」と考えたりしているときがいちばん楽しいです。
──子どもの頃は宇宙の不思議を研究したかったそうですが、宇宙には行きたいですか。
新谷:地上でやることがたくさんありすぎて……、宇宙に行きたいとは思わなくなりました。
地球上の人びとがよりよく生きるために、宇宙開発との関わりでできることは何か、今、議論しておかねばならないことは何か、そして日本の国力を上げるために、宇宙産業に何ができるのか。今はそのことばかり考えています。「宇宙の果てに何があるのか」を探求するよりも、命あるかぎり地球に軸足を置いて、そういった取り組みに力を注ぎたいですね。
子どもの頃、あることから「法律は、世の中の秩序を保つために必要だから発明され、そのおかげで私たちは安心して暮らせている。他の生命体とは比べようもないほど複雑な社会も、法律のおかげでつくれた」ことに気づいて、結局は宇宙を研究するのでなく法律家を目指すことになったのですが、幼い頃の、いわば原初の夢だった「宇宙」に関連する法律に携わる仕事が今、結果的にできている。本当に幸せなことだと思っています。
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新谷 美保子(しんたに・みほこ)◎慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、2006年弁護士登録(TMI総合法律事務所所属)。専門分野は、宇宙航空ビジネスに関する法務全般、宇宙法・航空法、新規事業立上げ、リスク管理、知的財産権など。2013年米国コロンビア大学ロースクール卒業後は、宇宙航空産業に複数のクライアントを持ち、民間企業間の大型紛争、宇宙ベンチャー投資、宇宙ビジネスに特有な契約交渉など、数多くの宇宙ビジネス法務を扱う。2018年には「一般社団法人Space Port Japan(SPJ)」設立メンバーとして理事に就任した。