欧州

2023.09.25 09:30

ロシア軍防空を翻弄するウクライナ、巡航ミサイルで黒海艦隊司令部を爆破

巡航ミサイル「ストームシャドー」を搭載したトーネードGR.1戦闘機(Peter R Foster IDMA / Shutterstock.com)

しかし、これらの攻撃だけではまだ、最長320キロメートルを亜音速で巡航するストームシャドーと、1970年代に開発されたSu-24Mのために安全な通路をつくり出すには不十分だった。ウクライナ側は、奪還したヘルソン州北部にレーダー妨害装置を1基、よりあり得そうなのは複数設置し、電子ノイズを大量に流してロシア側のレーダー運用者を混乱させたのかもしれない。
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「突然、ロシア側のレーダーと地対空ミサイルのカバー領域に大きな穴が生じた」とクーパーは書いている。「(ウクライナ側にとって)重要なのは、さまざまな兵器を組み合わせてこの穴を広げ、確保していくことだ。それはロシア側の防空システムを選別し、攻撃することによって行うことになる」

実際、ウクライナ軍にはいろいろな選択肢がある。空軍のSu-24やスホーイSu-27戦闘機、ミコヤンMiG-29戦闘機から米国製のAGM-88対レーダーミサイルやGPS(全地球測位システム)誘導滑空弾を発射することもできるし、陸軍のロケットランチャーから同じく米国製のGPS誘導弾を撃ち込むこともできる。

クーパーは、ロシアの防空を抜ける「回廊」によって、ストームシャドーとそのフランス版のスカルプEGが「ロシアによって占領されている地域の奥深く」まで飛行するための道が開かれていると解説している。
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ウクライナ側は、ロシア側の防空システムを混乱させて抑止しているのではなく、消耗させている可能性もある。この目的のためには、米国から供与されたADM-160空中発射デコイ(おとり)ミサイルが使えるだろう。

ADM-160は基本的には重量135キログラムほどの巡航ミサイルだが、弾頭が付いていない。米国は今年の春までに、ADM-160をひそかにウクライナに供与していた。これは5月、ウクライナ東部でADM-160の残骸が確認されたことで明らかになった。供与数も公表されていない。

ウクライナ空軍機はストームシャドーやスカルプEGを発射する直前に、ADM-160を発射しているのかもしれない。おとりミサイルは本物の巡航ミサイルの先を飛んでいるので、それがロシア側の対空ミサイルを引き寄せることになる。「ストームシャドーやスカルプEGが目標に迫っている時点では、ロシア側はそれを撃ち落とすためのミサイルがなくなっているだろう」(クーパー)

クーパーが示している第3の可能性は、2つ目のバリエーションになる。おとりを、残弾を減らすためでなく、注意をそらすために使っているというものだ。おとりミサイルは北側からクリミアに近づき、そのすきに爆撃機が西側から攻撃するのかもしれない。

ウクライナ側はおとりミサイルの在庫が乏しくなれば、ドローン(無人機)で補うこともできそうだ。「ADMと無人機を組み合わせてロシア側の防空を翻弄し、続いて本物のストームシャドウやスカルプEGを撃ち込むという手もある」とクーパーは説明する。

ウクライナ軍は、クーパーを含むウォッチャーたちの想像を超えるような別の戦術を編み出している可能性もある。いずれにせよ、ウクライナ軍がどうやってクリミアのロシア軍の防空を押さえ込んだのかは推測の域を出ない。だが、ウクライナ側がそれを押さえ込んだことは紛れもない事実である。爆発した軍艦や司令部がその証拠だ。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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